夏と先生と初恋。

絶対に逃げたくない。


しっかり息を吸って、最初の一音を鳴らす。


静かな空間にわたしの音だけが響いている。


今のわたしにできる最大限のソロ。




「うん。悪くない。今のソロ吹いたのは———竹中か」


「はい」


「もっと自信を持ってたっぷり息を入れてごらん。きっともっといい音がする」



先生と視線がかち合う。


穏やかに細められた茶色い瞳がこちらを見ている。


たっぷり吸って、吐いて。


…息が、足りない。



「竹中は、もっとたっぷり吸ってたっぷり吐く練習をしたほうがいいかもね」


「…はい」



…くやしいな


先生の前ではちゃんとできる生徒でいたかった。



「大丈夫、竹中ならできるよ」



悔しいのに、この一言でこんなに嬉しくなるなんて。


自分の単純さに自分で驚く。


目が合うたびにドキリと心臓が跳ねる。


前の顧問の先生は怖かったけど、こんなことは起こらなかったのに。


なんでだろう。