「っ、紗希せ…」
…わたしに、声をかける資格はあるのだろうか。
声をかけたとして、わたしに何が言えるのか。
黙って音楽室を出て行く紗希先輩を止める人は、いなかった。
「正直、すごく迷ったよ。音を聞いただけなのに、色んなことが伝わってきた。
本番でソロを吹けるのは1人だけかもしれない。それでも、努力はなかったことにはならないから。」
静かに話し始める藤木先生。
オーディションを受けたメンバーの顔を順に見つめていく。
「任せたよ、竹中」
最後に、わたしに向かった澄んだ双眸。
吸い寄せられるような、その瞳。
その綺麗な瞳をしっかりと見つめ返して、わたしは大きくうなずく。
「オーディションの結果は以上。ここからが本当に大変なところだと思う。
———みんなで、最高の夏にしよう」
開いた窓の外に見える空は、澄み切った青。
輝く太陽の日差しに混ざって、柔らかな天気雨が降っている。
風で吹き込んだ数滴の雨粒がわたしの腕にかかる。
日差しの温もりを感じさせないそれは、ひんやりと冷たかった。


