柱:コテージ前・昼過ぎ
雪がしんしんと降る山の景色。
コテージの木の扉が開き、木の温もりを感じる室内。
愛「わーー!あったかいっ!!」※両手を広げて中へ。
陽翔「まじだ!すっげえ〜!」
穂乃は3番目に入り、机の上に手持ちの荷物を置いて微笑む。
広いログハウスの中には、こたつや暖炉まである。
奥にはキッチンと長いテーブル。
愛「穂乃!写真で見たよりずっと素敵!」
穂乃「だね〜。今年も良い一年になりそう!」※ハイタッチ。
柱:コテージ・玄関
部屋を物色する愛と陽翔を置いて、外に出る。
外では夕陽と湊が荷物を下ろしている。
穂乃「ありがとう〜!」※手伝うために駆け寄る。
夕陽が穂乃のキャリーバッグをひょいと持ち上げる。
受け取ろうとするとそのままコテージ方向へ。
穂乃「えっ、それ私のだから自分で持つよ!」
夕陽「いいって。桜庭非力そうだもん」※軽く笑う。
穂乃「そんなこと……ない、けど」※ちょっとむくれ顔。
夕陽「あるっしょ」※楽しそうな意地悪顔
湊「桜庭さん。こっちのお菓子の袋お願いしてもいい?」※呆れたように夕陽を見て
穂乃「はーい」
言われた袋を手にするとすごく軽くて拍子抜け。
穂乃(心の声)「めっちゃ軽いじゃん。佐倉くんまで馬鹿にして」※ぷんぷんしながら荷物を部屋へと運ぶ。
柱:コテージ・リビング(夕方)
キッチンの上には、カットされた野菜や肉。
湯気が立ちのぼる土鍋。
陽翔「この白菜の層、完璧じゃない?!」
愛「黙って食材切って」
笑い声と音楽、カラフルな野菜の彩り。
コテージの窓の外には静かな雪。
穂乃はその景色を眺めながら嬉しそうにしゃもじを持って立っている。
愛「穂乃、楽しそうだね〜」
穂乃「え?……うん、楽しいよ。こういうの久しぶりなの」※照れ笑い。
湊「テストも終わったしな。最高の年明けだな」※にっこりと笑う。
穂乃(モノローグ)『12月のテストもなんとか乗り切った。いつもなら落ち込んでしまうようなギリギリだった科目もあったけど、気にしすぎずにいられたのは、辛い時にえらいって褒めてくれた煌斗さんのおかげかもしれない』
煌斗さんに頭を撫でられて嬉しそうに笑う穂乃の様子をカットで入れる。
湊「あれ、食器の数足りない……?」※引き出しを開けて
愛「ほんとだね、四枚ずつしかない」※覗き込みながら
穂乃「あ、じゃあ管理棟に行って取ってくるよ。ちょっと散歩したかったし」
愛「ほんと?ありがとう!」
穂乃はコートを着て外に出た。管理棟は五分くらい先。マフラーはいいかと考えコートだけで。
外は静かで、粉雪がふわふわと舞う。
穂乃「きれい」※雪を受け止めるように手を伸ばす。
足元に積もった雪をぎゅっと踏みしめ、スマホを取り出す。
カメラを向けて、街灯の下に降る雪を撮る。
〈雪、積もってます☃️〉
写真と一緒に煌斗へ送信。
すぐに既読がつき、メッセージが送られる。
〈きれいだね。ゆっくり息抜きしておいで〉
穂乃(心の声)「仕事の合間なのに……」
穂乃は小さく笑って、息を白く吐きながら空を見上げる。
雪の中で煌斗の優しい声を思い浮かべる。
柱:管理棟・夕方
白い木立の間を抜けて、足跡をつけながら歩く。
空はまだ明るく、灰色の雲のすき間から柔らかな光。
穂乃(心の声)「思ったより寒いなぁ食器とったら早めに戻ろう」
扉を開けると、中では夕陽が食器を抱えていた。
穂乃「あれ、西原くん?」
夕陽「えっ」※両手に皿を抱えて振り返る。
穂乃「どうしてここに?」
夕陽「食器足りなかったから。桜庭こそどうしたの、なんか足りなかった?」
穂乃「私もお皿足りないって気付いて」
夕陽「え、まじ?ごめん。言っておけばよかったね」
穂乃「ううんいいの、綺麗な雪景色も見れたから」
夕陽「あぁ、それはたしかに」
※ふたり笑って、棚を見上げる。
柱:管理棟・収納棚前
夕陽「こんなもんでいいかな」
呟きながら食器を集めていく夕陽。机に並んでいく。
お任せした穂乃は、きょろきょろと棚を見渡す。
穂乃(心の声)「他に何か必要なものあるかな。あ、ボウル足りないって言ってたっけ」
上段に並ぶボウルを見つけて、背伸びして手を伸ばす
指先が届きそうで届かない。
つま先立ちした瞬間、ガタッ、と棚が傾きボウルがバランスを崩す。
穂乃「わっ……!」
落ちてきたボウルを咄嗟に押さえたのは、後ろから伸びた夕陽の腕。
周りのボウルが落ちた金属音が小さく響く。
穂乃を包み込むように、夕陽の腕が守る。
ほんの数秒。穂乃はぎゅっと目を閉じていた。
夕陽「セーフ」※淡々と。いつも通りで
穂乃「……っ!」※顔を上げると、近すぎる距離に驚く
穂乃の反応に夕陽は目を丸くして、慌てて離れる。
夕陽「悪い、咄嗟で」
穂乃「い、いや、ううん!ありがとう、ごめん」※男の子との至近距離に慣れていない穂乃は声が裏返り、顔が真っ赤。
夕陽「ははっ」※笑って耳の後ろをかく。頬がほんのり赤い。
穂乃がしゃがんでボウルを抱え直す。
気を取り直そうと笑うが、まだ頬の熱が引かない。
夕陽「桜庭さ、彼氏できたんだって?」※空気を変えるように
穂乃「えっ、なんで知ってるの!」※勢いよく顔を上げる
夕陽「桜庭、人気あるんだよ。だから噂になってた」
穂乃「えー?そんなわけ……」※笑いながら視線を落とす。
夕陽はその横顔を見つめる。
夕陽(心の声)「やっぱり可愛いな」
穂乃「ん?」※不思議そうに見上げる。
夕陽「いや、なんでも」※視線を逸らす。
穂乃は不思議そうに首をかしげ、腕いっぱいにボウルを抱えて立ち上がる。
夕陽はその後ろ姿を少し見つめてから後を追う。
二人でコテージへ戻る。
ドアを開けると白い雪。
穂乃「あ、雪降ってる……」
夕陽「ほんとだ。早めに戻ろ」
雪はどんどん強まって、三分の一ほど進んだとき風が強くなった。
雪が舞い上がり、前が見えなくなる。
穂乃「っ、すご……!」
夕陽「これ、やばいな……。まだ結構あるし、一旦戻ろう!」
夕陽は探るように穂乃の手に触れて、ギュッと掴む。一瞬迷うような仕草もありながら。二人は顔を覆いながら駆け出す。
柱:管理棟・室内
夕陽「つめてえ!」
穂乃「わーやばいっ、びしょびしょだ」
管理棟の扉を再び開けて、中に駆け込む。
二人とも鼻が真っ赤。
お互いの様子を見て笑う。
穂乃「西原くん、真っ白」
夕陽「桜庭も」※帽子をとり犬みたいに頭を振って雪を落とす。
穂乃は真似して頭を振るけどあんまり落ちない。
夕陽笑いながら穂乃の髪の雪を落としてくれる。
来た時よりもずっと近い距離。
管理棟の隅に二人で座る。
物置きで椅子も机もない場所だから地面にお山座りで並ぶ。
穂乃、コートの肩がしっとり濡れていて、隙間風のたびに寒そうに肩をすくめる。
夕陽「寒いよな……?」※凍える穂乃に気がついて
穂乃「ううん。大丈夫だよ」※首を振るけど手が悴んで曲がっている
夕陽「これ使って」
夕陽が自分の首元からマフラーを外し、そのまま穂乃の肩にふわっとかける。
穂乃の動きが固まる。
穂乃(心の声)「あったかい」※ふわりと広がる、夕陽の体温の残った温かさ。
穂乃「えっ、大丈夫だよ……!」※慌てて
夕陽「男女の筋肉量の違い。学んだでしょ」※明るく笑う
自然な優しさで、マフラーの端を軽く整えてくれる夕陽。穂乃の頬は柔らかくピンクに染まる。
穂乃(心の声)「マフラーに顔が隠れててよかったかも」
夕陽「桜庭は、将来どうすんの?」※沈黙を無くす話題提起
穂乃「将来?」※マフラーに埋もれながら夕陽を見る。
夕陽「いや……ずっと頑張ってるし。なんかちゃんと目的ありそうだなって思って」
穂乃(モノローグ)『あまり自分のことを話すのは得意じゃない。けど、その日の西原くんの穏やかな表情は私を安心させていた』
穂乃「在宅介護……」
夕陽は、黙って視線を向ける
穂乃「在宅介護をやりたいの」※言葉は少ないけど意志は感じる強い目。口元は柔らかく笑う。
夕陽「一緒だ」※驚いたような嬉しそうな
穂乃「え、そうなの?」
夕陽「うん」※嬉しそうに笑う
夕陽はあぐらをかいて話を続ける。
夕陽「俺さ、両親が共働きでいつも帰りが遅くて。小さい頃はいつも隣の家のおじいちゃんに遊んでもらってたんだよ」※夕陽の表情は、少しだけ懐かしむよう。
夕陽「でも、俺が中学生になった頃かな。おばあさんを亡くしてひとりになってから、ガクンと体調が悪くなっていった」※穂乃、そっと夕陽を見る。
夕陽「俺、何もできなくてさ。でもそんなときにデイサービスに通うようになって、少しずつおじいちゃんも元気に明るく戻ってさ。なんか俺には、送迎にくるスタッフの人が、すげーカッコよく見えたんだよね。それで、ああいう仕事いいなって思った」
※夕陽キラキラした目で語る。穂乃は見惚れるように見つめる
穂乃「素敵な理由」
穂乃(モノローグ)『優しい人だとは思っていたけれど、西原くんの自然体な優しさの理由が分かった気がした』
夕陽「はは、なんか照れるな」
※照れたように笑う夕陽に、穂乃も覚悟を決めるように口を開く。
穂乃「私もね」
夕陽は、視線を向ける。
穂乃「大好きだったおばあちゃんがね、認知症で施設に入ってたの」
回想へ。
柱:穂乃の実家、和室(穂乃小学生)
穂乃「おばあちゃん!見て見て!お絵描きが賞入った!」
すみれ「すごいなあ。頑張ってたもんなあ、見せて見せて」
ランドセルを投げ出しておばあちゃんの部屋へ入る穂乃。
縁側でお茶を飲んでいたおばあちゃんが振り返る。
穂乃(モノローグ)『おばあちゃんにその日の出来事を報告に行くのは私の日課だった』
柱:施設の日当たりの良いオープンルーム(穂乃中学生14歳)
穂乃(モノローグ)『それは、おばあちゃんが家にいない日が増えてからも変わらない日常だった』
学校帰りに施設へ寄って、その日あった出来事を話す穂乃。うんうん、と柔らかく聞いてくれるおばあちゃん。
穂乃「おばあちゃん次はいつ帰ってくるの?」
すみれ「どうかなあ。またすぐ帰れるといいなあ」
寂しそうなおばあちゃんの様子。
柱:自宅キッチン(穂乃中学生14歳)
穂乃「おばあちゃん、なんで施設行かないといけないの?寂しそうだったよ?」
母「穂乃が寂しいのもわかってるよ。でもね……これが今できる一番いい形なの」
帰ってキッチンの母に尋ねる穂乃。母は困ったように洗い物をしていた手を拭いて、穂乃の頭を撫でる。
穂乃(モノローグ)『認知症が始まって施設に通うようになったことを聞いてはいたものの、私にとってのおばあちゃんは変わらないままで、納得できないことが多かった』
柱:病院(穂乃高校生17歳)
穂乃(モノローグ)『だけど、一時退院してきたときの本当に一瞬おばあちゃんが転んで怪我をした。その日から、認知症は一気に進んだ』
すみれは静かにベッドに横たわり、ぼんやりと窓の外の紅葉を見ている。
穂乃「おばあちゃん、来たよ〜〜」
すみれはゆっくり顔を向ける。
すみれ「いらっしゃい。どこから来たの?」※優しい外行きの声
穂乃の瞳が大きく揺れる。
穂乃「おばあちゃん?穂乃、だよ」
すみれ「うん。可愛らしい名前ね。おいくつなの?」※本当に優しい微笑み。
穂乃の目にブワッと涙が浮かぶ。
穂乃(モノローグ)『いつかはくるって分かってた。お母さんやお父さんがわからない瞬間も見ていた。でも……でも、こんなにも苦しいなんて』
穂乃「おばあちゃん!穂乃だよ!ねえ、分かるよね、ねえ!」
※カバンを落としベッドの横に走って必死で伝える。おばあちゃんはぼんやりと見ているだけ。
看護師「どうされました?……穂乃ちゃん?」※入ってきた看護師さんはすぐに状況を把握して、私の肩に優しく触れて声を止める。
すみれは看護師を見て微笑む。
すみれ「はなちゃん。この子、泣いてるのよ。助けてあげて」
穂乃(モノローグ)『目の前が真っ暗になった』※真っ青な穂乃の表情。
穂乃(心の声)「はなは、お母さんの名前だよ……?」
※声は出ず、ただ涙が流れ続ける。
穂乃(モノローグ)『その日から最後まで。おばあちゃんは私の名前を呼ぶことがなかった』
ー回想おわり
柱:管理棟・室内
穂乃がうっすらと張った涙をぬぐい、無理やり笑顔をつくる。
穂乃「その年の冬に、肺炎を起こして亡くなっちゃったの。家に帰ることもできないままで」
夕陽は、唇を噛み締め話を聞いていた。
穂乃「私、後悔してるの。家で看取れなかったこと。おばあちゃんがずっと願ってた「家に帰りたい」を叶えてあげられなかったこと」
夕陽「……だから、在宅介護」
穂乃「正解。今更やったっておばあちゃんは帰ってこないけど。同じ思いをする患者さんもご家族もたくさんいると思うから。少しでも力になりたいの」
※涙のあとは残るけど前向きな笑顔。
夕陽何も言わず、窓の外を見る。
夕陽「あ、雪止んでる」
穂乃「ほんとだ」※微笑む
柱:管理棟・外
ドアを開けると、雪が止み、真正面に沈んでいく夕陽が見える。積もりたての雪をキラキラと反射させて綺麗。
穂乃「夕日!」
穂乃が小走りで坂を登っていく。夕陽も後を追う。
管理棟は少し上がったところにあり、山に積もる雪景色を見渡せる。
穂乃「綺麗……!」
夕陽「うん、すげぇな……」
二人、並んで立つ。
夕陽「俺さ。夕日を見ると「ああがんばろ」って思えるんだよな」
穂乃「それは、名前が夕陽だから?」
夕陽「え、知ってたんだ」
穂乃「同じゼミなんだから当たり前じゃん。明るくてぴったりだよね」※夕陽、思わず目を見開く。
夕陽「そっか」※嬉しそう
穂乃「確かに、頑張ろうって思えるね!」※涙のあとが光る。夕陽は視線を向ける。
夕陽「うん、同じ目標持ったもの同士、これからも頑張ろう」※拳を向けられる
穂乃「うん!」※拳を作ってぶつける
ふたり、自然に向き合う。
夕陽「せっかくだし、夕陽って呼んでよ。俺も、穂乃って呼ぶから」
穂乃「分かった、夕陽ね」※特別照れることもなく笑う
夕陽の方が照れるのを隠すように、コテージへと先に歩き出す。
穂乃「あっ、待ってよ!」
夕陽「置いてくぞ!穂乃!」
穂乃は一瞬驚いて、楽しそうに笑う。夕日が後ろに光りとても綺麗
夕陽は背を向けてぽつり。
夕陽「彼氏ができる前に、もうちょっと一緒にいたかったな」
夕陽の横顔は、夕日の光で切なげに染まっている。
柱:コテージ外・夜
夜になって雪はすっかり止み、焚き火の炎が五人の顔を照らす。
薪がぱちぱちと弾ける音。
愛「見て〜〜マシュマロ焼けた〜!」※空高く掲げる
陽翔「焦げてるって!」※愛のマシュマロを見て爆笑
湊「……美味」※焚き火の近くに座りモクモグと食べる
穂乃と夕陽が並んでマシュマロを焼いている。
夕陽「穂乃そろそろいいんじゃね?」
穂乃「え、本当に?食べてみようかな」※おそるおそるマシュマロを齧る
途端に目を輝かせて夕陽を見る。
穂乃「すっごく美味しい!!夕陽も早く食べて!」※子供のように
夕陽「いや、俺はもうちょっと焼く」
親しげに笑い合う二人へ、三人が視線を向けている。
陽翔「おいおい、なんか仲良さそうじゃん!」※茶化す
夕陽「うるせえな、普通だよ」※言いながら嬉しそう
湊「夕陽嬉しそうだな」※次のマシュマロを用意しながら淡々と
その様子に愛と穂乃も笑い合う。
愛「じゃあさ、今日からみんな名前呼びにしようよ!」
五人が火を囲み、笑い声が響く。
穂乃(モノローグ)『夕陽と目標を語り合って、みんなとも少し距離が縮まった。こういうのを青春っていうのかな。一心不乱に頑張ってきたけど、仲間がいるってこんなにも心強いんだ』
夕陽と目が合う。
夕陽が焚き火の光を受けて、やわらかく微笑む。
穂乃(モノローグ)『また頑張ろう。この冬を越えて、もっと強くなりたい』
柱:コテージ・寝室・翌朝
穂乃は布団の中で苦しそうに目を寄せる。
その周りを愛がうろうろと落ち着きなく動き回る。
陽翔「体温計あったよ」
部屋をノックした陽翔に愛が受け取り穂乃が体温を図る。
愛「38.7……って高熱!」
湊「完全にアウトだな」
穂乃(心の声)「今日は1日スノボで遊ぶ予定だったのに。みんなには迷惑かけちゃダメだ」
夕陽「無理させない方がいいよ。帰ろう」
愛「だね……」
穂乃「私、電車で帰るから……みんなはスノボ行って」※苦しそうに笑う
夕陽「無理に決まってるだろ。俺送るから、みんな先遊んでて」
愛「私もいくよ。夕陽家知らないでしょ」
穂乃は抵抗する気力もなく、後部座席で眠りながら家へ。
柱:穂乃の家の前
目が覚めると後部座席のドアが開けられていた。
愛が心配そうに覗き込む。
愛「着いたけど、起きれそう?」
穂乃「起きれる。ありがとう……」
穂乃(心の声)「苦しい。頭が痛くて何も考えられない……」
フラフラとしながら体勢を起こし、愛の手に捕まって車を降りる。
後ろに一台の車が止まり、すぐにスーツ姿の煌斗が降りてくる
愛「煌斗さん!」※夕陽が僅かに目を見開く
穂乃は熱のせいで朦朧としており、気づかない。
立ち上がった穂乃がふらついて愛に体重がかかる。
愛も咄嗟のことに抱えきれずバランスを崩す。
夕陽と煌斗が同時に手を伸ばし、二人を支える。
夕陽「気をつけて!」
煌斗「大丈夫?」
※二人の視線が一瞬交わる。
煌斗は穂乃の頬に触れる。
優しいが力強い所作で穂乃を引き寄せる。
煌斗「愛ちゃん、連絡ありがとう」
愛「いえ。名刺もらっててよかったです」
※財布から名刺を出して連絡する愛の姿を一コマで回想に入れる
煌斗「送ってくれてありがとう」※夕陽に向かって
夕陽「友達なので。当然です」※少し強い口調。
煌斗「素敵なお友達がいて心強いよ。ありがとう」※煌斗はふっと微笑む。
そのまま夕陽の手から穂乃を自然に奪うように抱き寄せる。
朦朧とした穂乃は、安心したように煌斗に腕を回す。
夕陽は目を丸くして、少し悔しそうに唇を噛む。
愛「あの、こちらから連絡しておいてあれですけど、お仕事は大丈夫ですか?もし穂乃がひとりになるなら、私残ろうかなって」※心配そうに穂乃を見て
煌斗「ありがとう。でも大丈夫。もう客先案件は終わったから、このあとは在宅に切り替えるよ」※腕時計を見る。愛と夕陽は、黙って頷く。
煌斗「じゃあ、早く寝かせてあげたいから。行くね」
穂乃「夕陽……愛……ありがと……」
煌斗は穂乃が言い切るのを確認し、穂乃をひょいと抱きかかえる。
見送る夕陽の視線が複雑そうに歪む。
柱:穂乃の家。扉の前。
穂乃(心の声)「振動が心地よい。それに温かい」
穂乃「……あれ……あきと、さん……?」※腕の中でぼんやりと
煌斗「そうだよ。すごい熱。しんどいでしょ」
朦朧とした穂乃を抱き上げたまま、煌斗が玄関前で立ち止まる。
煌斗「ごめん、家、お邪魔するね。鍵もらえる?」
穂乃「はい……。って、えっ……ま、まってください……!今すごく散らかってて……!」※突然正気に戻り、首を振る穂乃
煌斗「いいから」
落ち着いた声で言い切ると、穂乃を一度おろしてカバンを渡す。
穂乃「でも……」
煌斗「しんどいでしょ。気にしなくていいから」
穂乃はカバンを漁り鍵を開ける。
煌斗はそのまま穂乃を抱え直し、ためらわず中へ入っていく。
部屋に入り、穂乃をベッドに寝かせる。
穂乃「掃除しなきゃ……!」※ぶつぶつと寝ぼけているように言いながら寝かされるとあっという間に眠りに落ちる。
煌斗「無理しちゃって」※苦しそうに眠る穂乃の額に手を当てる。布団と毛布をかけ直して髪を撫でる。
「んん」と苦しそうに何かをいう穂乃。
そのとき、枕元に投げ出されたスマホが光る。
画面に浮かぶメッセージ。
【夕陽:昨日の雪で冷えたからだよなごめんな。何かあったら連絡して】
煌斗、動きを止める。
しばらく画面を見つめたままで、瞳が静かに冷たく光る。
第5話終
雪がしんしんと降る山の景色。
コテージの木の扉が開き、木の温もりを感じる室内。
愛「わーー!あったかいっ!!」※両手を広げて中へ。
陽翔「まじだ!すっげえ〜!」
穂乃は3番目に入り、机の上に手持ちの荷物を置いて微笑む。
広いログハウスの中には、こたつや暖炉まである。
奥にはキッチンと長いテーブル。
愛「穂乃!写真で見たよりずっと素敵!」
穂乃「だね〜。今年も良い一年になりそう!」※ハイタッチ。
柱:コテージ・玄関
部屋を物色する愛と陽翔を置いて、外に出る。
外では夕陽と湊が荷物を下ろしている。
穂乃「ありがとう〜!」※手伝うために駆け寄る。
夕陽が穂乃のキャリーバッグをひょいと持ち上げる。
受け取ろうとするとそのままコテージ方向へ。
穂乃「えっ、それ私のだから自分で持つよ!」
夕陽「いいって。桜庭非力そうだもん」※軽く笑う。
穂乃「そんなこと……ない、けど」※ちょっとむくれ顔。
夕陽「あるっしょ」※楽しそうな意地悪顔
湊「桜庭さん。こっちのお菓子の袋お願いしてもいい?」※呆れたように夕陽を見て
穂乃「はーい」
言われた袋を手にするとすごく軽くて拍子抜け。
穂乃(心の声)「めっちゃ軽いじゃん。佐倉くんまで馬鹿にして」※ぷんぷんしながら荷物を部屋へと運ぶ。
柱:コテージ・リビング(夕方)
キッチンの上には、カットされた野菜や肉。
湯気が立ちのぼる土鍋。
陽翔「この白菜の層、完璧じゃない?!」
愛「黙って食材切って」
笑い声と音楽、カラフルな野菜の彩り。
コテージの窓の外には静かな雪。
穂乃はその景色を眺めながら嬉しそうにしゃもじを持って立っている。
愛「穂乃、楽しそうだね〜」
穂乃「え?……うん、楽しいよ。こういうの久しぶりなの」※照れ笑い。
湊「テストも終わったしな。最高の年明けだな」※にっこりと笑う。
穂乃(モノローグ)『12月のテストもなんとか乗り切った。いつもなら落ち込んでしまうようなギリギリだった科目もあったけど、気にしすぎずにいられたのは、辛い時にえらいって褒めてくれた煌斗さんのおかげかもしれない』
煌斗さんに頭を撫でられて嬉しそうに笑う穂乃の様子をカットで入れる。
湊「あれ、食器の数足りない……?」※引き出しを開けて
愛「ほんとだね、四枚ずつしかない」※覗き込みながら
穂乃「あ、じゃあ管理棟に行って取ってくるよ。ちょっと散歩したかったし」
愛「ほんと?ありがとう!」
穂乃はコートを着て外に出た。管理棟は五分くらい先。マフラーはいいかと考えコートだけで。
外は静かで、粉雪がふわふわと舞う。
穂乃「きれい」※雪を受け止めるように手を伸ばす。
足元に積もった雪をぎゅっと踏みしめ、スマホを取り出す。
カメラを向けて、街灯の下に降る雪を撮る。
〈雪、積もってます☃️〉
写真と一緒に煌斗へ送信。
すぐに既読がつき、メッセージが送られる。
〈きれいだね。ゆっくり息抜きしておいで〉
穂乃(心の声)「仕事の合間なのに……」
穂乃は小さく笑って、息を白く吐きながら空を見上げる。
雪の中で煌斗の優しい声を思い浮かべる。
柱:管理棟・夕方
白い木立の間を抜けて、足跡をつけながら歩く。
空はまだ明るく、灰色の雲のすき間から柔らかな光。
穂乃(心の声)「思ったより寒いなぁ食器とったら早めに戻ろう」
扉を開けると、中では夕陽が食器を抱えていた。
穂乃「あれ、西原くん?」
夕陽「えっ」※両手に皿を抱えて振り返る。
穂乃「どうしてここに?」
夕陽「食器足りなかったから。桜庭こそどうしたの、なんか足りなかった?」
穂乃「私もお皿足りないって気付いて」
夕陽「え、まじ?ごめん。言っておけばよかったね」
穂乃「ううんいいの、綺麗な雪景色も見れたから」
夕陽「あぁ、それはたしかに」
※ふたり笑って、棚を見上げる。
柱:管理棟・収納棚前
夕陽「こんなもんでいいかな」
呟きながら食器を集めていく夕陽。机に並んでいく。
お任せした穂乃は、きょろきょろと棚を見渡す。
穂乃(心の声)「他に何か必要なものあるかな。あ、ボウル足りないって言ってたっけ」
上段に並ぶボウルを見つけて、背伸びして手を伸ばす
指先が届きそうで届かない。
つま先立ちした瞬間、ガタッ、と棚が傾きボウルがバランスを崩す。
穂乃「わっ……!」
落ちてきたボウルを咄嗟に押さえたのは、後ろから伸びた夕陽の腕。
周りのボウルが落ちた金属音が小さく響く。
穂乃を包み込むように、夕陽の腕が守る。
ほんの数秒。穂乃はぎゅっと目を閉じていた。
夕陽「セーフ」※淡々と。いつも通りで
穂乃「……っ!」※顔を上げると、近すぎる距離に驚く
穂乃の反応に夕陽は目を丸くして、慌てて離れる。
夕陽「悪い、咄嗟で」
穂乃「い、いや、ううん!ありがとう、ごめん」※男の子との至近距離に慣れていない穂乃は声が裏返り、顔が真っ赤。
夕陽「ははっ」※笑って耳の後ろをかく。頬がほんのり赤い。
穂乃がしゃがんでボウルを抱え直す。
気を取り直そうと笑うが、まだ頬の熱が引かない。
夕陽「桜庭さ、彼氏できたんだって?」※空気を変えるように
穂乃「えっ、なんで知ってるの!」※勢いよく顔を上げる
夕陽「桜庭、人気あるんだよ。だから噂になってた」
穂乃「えー?そんなわけ……」※笑いながら視線を落とす。
夕陽はその横顔を見つめる。
夕陽(心の声)「やっぱり可愛いな」
穂乃「ん?」※不思議そうに見上げる。
夕陽「いや、なんでも」※視線を逸らす。
穂乃は不思議そうに首をかしげ、腕いっぱいにボウルを抱えて立ち上がる。
夕陽はその後ろ姿を少し見つめてから後を追う。
二人でコテージへ戻る。
ドアを開けると白い雪。
穂乃「あ、雪降ってる……」
夕陽「ほんとだ。早めに戻ろ」
雪はどんどん強まって、三分の一ほど進んだとき風が強くなった。
雪が舞い上がり、前が見えなくなる。
穂乃「っ、すご……!」
夕陽「これ、やばいな……。まだ結構あるし、一旦戻ろう!」
夕陽は探るように穂乃の手に触れて、ギュッと掴む。一瞬迷うような仕草もありながら。二人は顔を覆いながら駆け出す。
柱:管理棟・室内
夕陽「つめてえ!」
穂乃「わーやばいっ、びしょびしょだ」
管理棟の扉を再び開けて、中に駆け込む。
二人とも鼻が真っ赤。
お互いの様子を見て笑う。
穂乃「西原くん、真っ白」
夕陽「桜庭も」※帽子をとり犬みたいに頭を振って雪を落とす。
穂乃は真似して頭を振るけどあんまり落ちない。
夕陽笑いながら穂乃の髪の雪を落としてくれる。
来た時よりもずっと近い距離。
管理棟の隅に二人で座る。
物置きで椅子も机もない場所だから地面にお山座りで並ぶ。
穂乃、コートの肩がしっとり濡れていて、隙間風のたびに寒そうに肩をすくめる。
夕陽「寒いよな……?」※凍える穂乃に気がついて
穂乃「ううん。大丈夫だよ」※首を振るけど手が悴んで曲がっている
夕陽「これ使って」
夕陽が自分の首元からマフラーを外し、そのまま穂乃の肩にふわっとかける。
穂乃の動きが固まる。
穂乃(心の声)「あったかい」※ふわりと広がる、夕陽の体温の残った温かさ。
穂乃「えっ、大丈夫だよ……!」※慌てて
夕陽「男女の筋肉量の違い。学んだでしょ」※明るく笑う
自然な優しさで、マフラーの端を軽く整えてくれる夕陽。穂乃の頬は柔らかくピンクに染まる。
穂乃(心の声)「マフラーに顔が隠れててよかったかも」
夕陽「桜庭は、将来どうすんの?」※沈黙を無くす話題提起
穂乃「将来?」※マフラーに埋もれながら夕陽を見る。
夕陽「いや……ずっと頑張ってるし。なんかちゃんと目的ありそうだなって思って」
穂乃(モノローグ)『あまり自分のことを話すのは得意じゃない。けど、その日の西原くんの穏やかな表情は私を安心させていた』
穂乃「在宅介護……」
夕陽は、黙って視線を向ける
穂乃「在宅介護をやりたいの」※言葉は少ないけど意志は感じる強い目。口元は柔らかく笑う。
夕陽「一緒だ」※驚いたような嬉しそうな
穂乃「え、そうなの?」
夕陽「うん」※嬉しそうに笑う
夕陽はあぐらをかいて話を続ける。
夕陽「俺さ、両親が共働きでいつも帰りが遅くて。小さい頃はいつも隣の家のおじいちゃんに遊んでもらってたんだよ」※夕陽の表情は、少しだけ懐かしむよう。
夕陽「でも、俺が中学生になった頃かな。おばあさんを亡くしてひとりになってから、ガクンと体調が悪くなっていった」※穂乃、そっと夕陽を見る。
夕陽「俺、何もできなくてさ。でもそんなときにデイサービスに通うようになって、少しずつおじいちゃんも元気に明るく戻ってさ。なんか俺には、送迎にくるスタッフの人が、すげーカッコよく見えたんだよね。それで、ああいう仕事いいなって思った」
※夕陽キラキラした目で語る。穂乃は見惚れるように見つめる
穂乃「素敵な理由」
穂乃(モノローグ)『優しい人だとは思っていたけれど、西原くんの自然体な優しさの理由が分かった気がした』
夕陽「はは、なんか照れるな」
※照れたように笑う夕陽に、穂乃も覚悟を決めるように口を開く。
穂乃「私もね」
夕陽は、視線を向ける。
穂乃「大好きだったおばあちゃんがね、認知症で施設に入ってたの」
回想へ。
柱:穂乃の実家、和室(穂乃小学生)
穂乃「おばあちゃん!見て見て!お絵描きが賞入った!」
すみれ「すごいなあ。頑張ってたもんなあ、見せて見せて」
ランドセルを投げ出しておばあちゃんの部屋へ入る穂乃。
縁側でお茶を飲んでいたおばあちゃんが振り返る。
穂乃(モノローグ)『おばあちゃんにその日の出来事を報告に行くのは私の日課だった』
柱:施設の日当たりの良いオープンルーム(穂乃中学生14歳)
穂乃(モノローグ)『それは、おばあちゃんが家にいない日が増えてからも変わらない日常だった』
学校帰りに施設へ寄って、その日あった出来事を話す穂乃。うんうん、と柔らかく聞いてくれるおばあちゃん。
穂乃「おばあちゃん次はいつ帰ってくるの?」
すみれ「どうかなあ。またすぐ帰れるといいなあ」
寂しそうなおばあちゃんの様子。
柱:自宅キッチン(穂乃中学生14歳)
穂乃「おばあちゃん、なんで施設行かないといけないの?寂しそうだったよ?」
母「穂乃が寂しいのもわかってるよ。でもね……これが今できる一番いい形なの」
帰ってキッチンの母に尋ねる穂乃。母は困ったように洗い物をしていた手を拭いて、穂乃の頭を撫でる。
穂乃(モノローグ)『認知症が始まって施設に通うようになったことを聞いてはいたものの、私にとってのおばあちゃんは変わらないままで、納得できないことが多かった』
柱:病院(穂乃高校生17歳)
穂乃(モノローグ)『だけど、一時退院してきたときの本当に一瞬おばあちゃんが転んで怪我をした。その日から、認知症は一気に進んだ』
すみれは静かにベッドに横たわり、ぼんやりと窓の外の紅葉を見ている。
穂乃「おばあちゃん、来たよ〜〜」
すみれはゆっくり顔を向ける。
すみれ「いらっしゃい。どこから来たの?」※優しい外行きの声
穂乃の瞳が大きく揺れる。
穂乃「おばあちゃん?穂乃、だよ」
すみれ「うん。可愛らしい名前ね。おいくつなの?」※本当に優しい微笑み。
穂乃の目にブワッと涙が浮かぶ。
穂乃(モノローグ)『いつかはくるって分かってた。お母さんやお父さんがわからない瞬間も見ていた。でも……でも、こんなにも苦しいなんて』
穂乃「おばあちゃん!穂乃だよ!ねえ、分かるよね、ねえ!」
※カバンを落としベッドの横に走って必死で伝える。おばあちゃんはぼんやりと見ているだけ。
看護師「どうされました?……穂乃ちゃん?」※入ってきた看護師さんはすぐに状況を把握して、私の肩に優しく触れて声を止める。
すみれは看護師を見て微笑む。
すみれ「はなちゃん。この子、泣いてるのよ。助けてあげて」
穂乃(モノローグ)『目の前が真っ暗になった』※真っ青な穂乃の表情。
穂乃(心の声)「はなは、お母さんの名前だよ……?」
※声は出ず、ただ涙が流れ続ける。
穂乃(モノローグ)『その日から最後まで。おばあちゃんは私の名前を呼ぶことがなかった』
ー回想おわり
柱:管理棟・室内
穂乃がうっすらと張った涙をぬぐい、無理やり笑顔をつくる。
穂乃「その年の冬に、肺炎を起こして亡くなっちゃったの。家に帰ることもできないままで」
夕陽は、唇を噛み締め話を聞いていた。
穂乃「私、後悔してるの。家で看取れなかったこと。おばあちゃんがずっと願ってた「家に帰りたい」を叶えてあげられなかったこと」
夕陽「……だから、在宅介護」
穂乃「正解。今更やったっておばあちゃんは帰ってこないけど。同じ思いをする患者さんもご家族もたくさんいると思うから。少しでも力になりたいの」
※涙のあとは残るけど前向きな笑顔。
夕陽何も言わず、窓の外を見る。
夕陽「あ、雪止んでる」
穂乃「ほんとだ」※微笑む
柱:管理棟・外
ドアを開けると、雪が止み、真正面に沈んでいく夕陽が見える。積もりたての雪をキラキラと反射させて綺麗。
穂乃「夕日!」
穂乃が小走りで坂を登っていく。夕陽も後を追う。
管理棟は少し上がったところにあり、山に積もる雪景色を見渡せる。
穂乃「綺麗……!」
夕陽「うん、すげぇな……」
二人、並んで立つ。
夕陽「俺さ。夕日を見ると「ああがんばろ」って思えるんだよな」
穂乃「それは、名前が夕陽だから?」
夕陽「え、知ってたんだ」
穂乃「同じゼミなんだから当たり前じゃん。明るくてぴったりだよね」※夕陽、思わず目を見開く。
夕陽「そっか」※嬉しそう
穂乃「確かに、頑張ろうって思えるね!」※涙のあとが光る。夕陽は視線を向ける。
夕陽「うん、同じ目標持ったもの同士、これからも頑張ろう」※拳を向けられる
穂乃「うん!」※拳を作ってぶつける
ふたり、自然に向き合う。
夕陽「せっかくだし、夕陽って呼んでよ。俺も、穂乃って呼ぶから」
穂乃「分かった、夕陽ね」※特別照れることもなく笑う
夕陽の方が照れるのを隠すように、コテージへと先に歩き出す。
穂乃「あっ、待ってよ!」
夕陽「置いてくぞ!穂乃!」
穂乃は一瞬驚いて、楽しそうに笑う。夕日が後ろに光りとても綺麗
夕陽は背を向けてぽつり。
夕陽「彼氏ができる前に、もうちょっと一緒にいたかったな」
夕陽の横顔は、夕日の光で切なげに染まっている。
柱:コテージ外・夜
夜になって雪はすっかり止み、焚き火の炎が五人の顔を照らす。
薪がぱちぱちと弾ける音。
愛「見て〜〜マシュマロ焼けた〜!」※空高く掲げる
陽翔「焦げてるって!」※愛のマシュマロを見て爆笑
湊「……美味」※焚き火の近くに座りモクモグと食べる
穂乃と夕陽が並んでマシュマロを焼いている。
夕陽「穂乃そろそろいいんじゃね?」
穂乃「え、本当に?食べてみようかな」※おそるおそるマシュマロを齧る
途端に目を輝かせて夕陽を見る。
穂乃「すっごく美味しい!!夕陽も早く食べて!」※子供のように
夕陽「いや、俺はもうちょっと焼く」
親しげに笑い合う二人へ、三人が視線を向けている。
陽翔「おいおい、なんか仲良さそうじゃん!」※茶化す
夕陽「うるせえな、普通だよ」※言いながら嬉しそう
湊「夕陽嬉しそうだな」※次のマシュマロを用意しながら淡々と
その様子に愛と穂乃も笑い合う。
愛「じゃあさ、今日からみんな名前呼びにしようよ!」
五人が火を囲み、笑い声が響く。
穂乃(モノローグ)『夕陽と目標を語り合って、みんなとも少し距離が縮まった。こういうのを青春っていうのかな。一心不乱に頑張ってきたけど、仲間がいるってこんなにも心強いんだ』
夕陽と目が合う。
夕陽が焚き火の光を受けて、やわらかく微笑む。
穂乃(モノローグ)『また頑張ろう。この冬を越えて、もっと強くなりたい』
柱:コテージ・寝室・翌朝
穂乃は布団の中で苦しそうに目を寄せる。
その周りを愛がうろうろと落ち着きなく動き回る。
陽翔「体温計あったよ」
部屋をノックした陽翔に愛が受け取り穂乃が体温を図る。
愛「38.7……って高熱!」
湊「完全にアウトだな」
穂乃(心の声)「今日は1日スノボで遊ぶ予定だったのに。みんなには迷惑かけちゃダメだ」
夕陽「無理させない方がいいよ。帰ろう」
愛「だね……」
穂乃「私、電車で帰るから……みんなはスノボ行って」※苦しそうに笑う
夕陽「無理に決まってるだろ。俺送るから、みんな先遊んでて」
愛「私もいくよ。夕陽家知らないでしょ」
穂乃は抵抗する気力もなく、後部座席で眠りながら家へ。
柱:穂乃の家の前
目が覚めると後部座席のドアが開けられていた。
愛が心配そうに覗き込む。
愛「着いたけど、起きれそう?」
穂乃「起きれる。ありがとう……」
穂乃(心の声)「苦しい。頭が痛くて何も考えられない……」
フラフラとしながら体勢を起こし、愛の手に捕まって車を降りる。
後ろに一台の車が止まり、すぐにスーツ姿の煌斗が降りてくる
愛「煌斗さん!」※夕陽が僅かに目を見開く
穂乃は熱のせいで朦朧としており、気づかない。
立ち上がった穂乃がふらついて愛に体重がかかる。
愛も咄嗟のことに抱えきれずバランスを崩す。
夕陽と煌斗が同時に手を伸ばし、二人を支える。
夕陽「気をつけて!」
煌斗「大丈夫?」
※二人の視線が一瞬交わる。
煌斗は穂乃の頬に触れる。
優しいが力強い所作で穂乃を引き寄せる。
煌斗「愛ちゃん、連絡ありがとう」
愛「いえ。名刺もらっててよかったです」
※財布から名刺を出して連絡する愛の姿を一コマで回想に入れる
煌斗「送ってくれてありがとう」※夕陽に向かって
夕陽「友達なので。当然です」※少し強い口調。
煌斗「素敵なお友達がいて心強いよ。ありがとう」※煌斗はふっと微笑む。
そのまま夕陽の手から穂乃を自然に奪うように抱き寄せる。
朦朧とした穂乃は、安心したように煌斗に腕を回す。
夕陽は目を丸くして、少し悔しそうに唇を噛む。
愛「あの、こちらから連絡しておいてあれですけど、お仕事は大丈夫ですか?もし穂乃がひとりになるなら、私残ろうかなって」※心配そうに穂乃を見て
煌斗「ありがとう。でも大丈夫。もう客先案件は終わったから、このあとは在宅に切り替えるよ」※腕時計を見る。愛と夕陽は、黙って頷く。
煌斗「じゃあ、早く寝かせてあげたいから。行くね」
穂乃「夕陽……愛……ありがと……」
煌斗は穂乃が言い切るのを確認し、穂乃をひょいと抱きかかえる。
見送る夕陽の視線が複雑そうに歪む。
柱:穂乃の家。扉の前。
穂乃(心の声)「振動が心地よい。それに温かい」
穂乃「……あれ……あきと、さん……?」※腕の中でぼんやりと
煌斗「そうだよ。すごい熱。しんどいでしょ」
朦朧とした穂乃を抱き上げたまま、煌斗が玄関前で立ち止まる。
煌斗「ごめん、家、お邪魔するね。鍵もらえる?」
穂乃「はい……。って、えっ……ま、まってください……!今すごく散らかってて……!」※突然正気に戻り、首を振る穂乃
煌斗「いいから」
落ち着いた声で言い切ると、穂乃を一度おろしてカバンを渡す。
穂乃「でも……」
煌斗「しんどいでしょ。気にしなくていいから」
穂乃はカバンを漁り鍵を開ける。
煌斗はそのまま穂乃を抱え直し、ためらわず中へ入っていく。
部屋に入り、穂乃をベッドに寝かせる。
穂乃「掃除しなきゃ……!」※ぶつぶつと寝ぼけているように言いながら寝かされるとあっという間に眠りに落ちる。
煌斗「無理しちゃって」※苦しそうに眠る穂乃の額に手を当てる。布団と毛布をかけ直して髪を撫でる。
「んん」と苦しそうに何かをいう穂乃。
そのとき、枕元に投げ出されたスマホが光る。
画面に浮かぶメッセージ。
【夕陽:昨日の雪で冷えたからだよなごめんな。何かあったら連絡して】
煌斗、動きを止める。
しばらく画面を見つめたままで、瞳が静かに冷たく光る。
第5話終



