柱:大学・カフェテラス・昼休み
愛「……それ、騙されてるよ」※真正面に座る愛。穂乃と真剣な顔で目を合わせる
穂乃「」※まっすぐに見つめ返す。
次の瞬間に、がくっと項垂れる穂乃。
その様子を見て、呆れたように笑う愛。
穂乃「やっぱりそう思う……?」※子犬のような潤んだ瞳
愛「流石にね〜、超慣れてそうだし。あまりにも展開が早い。二回目で付き合ってほしいなんて、絶対に遊ばれてる」
※グサグサと穂乃に言葉を突き刺して、満足したようにラテに口をつける。
中庭に面したカフェテラス。
レンガの床と、オシャレな外のテーブルに愛と穂乃が向き合って座る。
手にはホットラテ。テイクアウトにもできる紙で蓋つきのカップ。
穂乃(モノローグ)『「俺と付き合わない?」信じられない言葉だった。でも安心するその声はずっと、私の中に残り続けている』
穂乃の想像の中で、振り返って微笑む煌斗の姿。
愛「それからも会ってるんだよね?」
穂乃「うん、二回会った……」※こくりと元気なく頷く
愛「返事はしたの?」
穂乃「ううん……。しなくていいって言われたし……」※次は首を左右に振る。
回想へ
柱:告白された日の車内・夜
穂乃、言葉を失い、視線を彷徨わせる。
煌斗が小さく笑ってカラッと空気を変える。
煌斗「やっぱ急ぎすぎたね。ごめんごめん。困らせた。また気楽に、これからも会ってくれると嬉しいよ。気持ちに嘘はないから」
回想終わり
愛は怪訝な表情を向ける。
愛「あーもう!連れていくべきじゃなかった〜!穂乃に近寄る男をしっかり見定めておくべきだったよ!やっぱバーでの出会いなんてよくないよね、穂乃にはもっと良い出会い方してほしい!」※すごい勢いで
穂乃「……そ、そんなに言わなくても」※苦笑い
穂乃(モノローグ)『少し前、愛は良い感じだと思っていた海翔くんに「彼女とか作るつもりないんだよね」もっと気楽に遊ぼうよ」と言われて、ご乱心なのだ』
その時のプンプン怒っている愛のカットを入れる。
愛「いい?あんな誰でも選び放題な社会人はぜーーったいに恋愛慣れてるんだから、私たちみたいな学生に声をかける必要なんてないの。だから絶対に遊び。騙されちゃだめだからね!」
過激派の愛の勢いは止まらない。
うんうんと頷いて聞いている間にスマホの通知が鳴り、穂乃は頷きならスマホに視線を移す。
穂乃「……っ」※画面を見て、目が丸くなる。
愛「穂乃、まさか……」
敵意剥き出しの愛の隣で気まずそうに通話ボタンを押す。
煌斗「今大丈夫?」
穂乃「あ、あの……いま、友達といて……」※威嚇してくる愛を気にしながら
煌斗「それは邪魔してごめん。午後テストって言ってたから、頑張れって言いたかっただけ。頑張っておいで」
穂乃「えっ……ありがとうございます。あの、頑張ります……!」
煌斗「うん。じゃあまた」
通話が切れる。
穂乃はスマホを持ったまま固まる。
耳まで赤くなっていて、何も言えない。
愛「……」※じとーっとした目。
穂乃「な、なに?」
愛「だめだよ穂乃!心を持ってかれたら終わりだよ〜〜〜!」
※両手を広げて穂乃に抱きつく。大げさに泣く真似をする。
穂乃、思わず吹き出す。
穂乃「大丈夫だよ。私だってありえないってことわかってる」
そう言いながらスマホの画面を見つめる。
煌斗〈ちょっと緊張してそうだったよね。穂乃ちゃんならきっと大丈夫だから。深呼吸して落ち着いてね〉
メッセージに、素直な心はときめいてしまう。
穂乃(モノローグ)『わかってる。絶対におかしいって頭ではそう思うのに、心が動くことを止められない』
柱:大学近くのカジュアルレストラン・夜
テーブルの上には残り少ないグラスと小皿。
穂乃、愛ふたりでテスト後の打ち上げ。
愛は少し酔って上機嫌。
愛「穂乃〜〜もうすぐ冬休みだよ〜〜なんかして遊ぼうよお」
穂乃「そうだね、また予定立てよ」※酔っている口調に笑いながら。
穂乃のスマホが震える。
穂乃「……えっ」※一瞬で表情が変わる。
愛「まさか、またあの男でしょお!!」※大きな声で身を乗り出す。
穂乃「ちょ、愛、声が大きい〜!」
愛が奪い取ったスマホの画面。ホーム画面に通知が見えている。
《会いたい》たった四文字。
愛「えっ、やばい。こんな感じなの社会人!なんかいいなあ、もう騙されててもいいやって思っちゃうよねこんなの!いいなあ〜〜」
酔っているからか、本音がダダ漏れの愛。
穂乃「愛、お昼と言ってること違う……」※苦笑い
愛「いや、だめだ。穂乃が悲しむのは私が止めなきゃ!ガツンと言ってやる!」
※ぶつぶつと言いながら、指を走らせる愛。
穂乃「ちょ、ちょっと!?なにしてるの!」
愛「送った!お店の場所!」
穂乃「ええっ!?」※本気で焦った顔
慌ててスマホを奪い返し、必死に打ち込む。
穂乃《すみません!友達が勝手に送ってしまって!!友達酔ってて!》
ぎゅっとスマホを握って固まっている穂乃。
少しの間があって、既読がつく。
煌斗《お邪魔したら悪いから。もしよければ終わる時間に迎えに行ってもいい?》
穂乃「えっ……!」※思わず声が漏れる。
愛「ほらあ!慣れてる!!返信が完璧すぎる!!」
穂乃「それはそうだよね……」
愛「こんなスマートな返し、慣れてなきゃできないって!」※テーブルに突っ伏して嘆く。
柱:お店の外・夜
愛「だからバーはだめ!海翔くんも陸くんもすっごく遊んでるんだって!」
店の外、少し酔いが覚めた愛は、海翔くんへの恨みを思う存分吐き出して少しスッキリしたようだった。
お店の前で熱った顔を冷やすように立ち話をするふたり。
煌斗の黒い車が静かに停まる。ライトに照らされて、スーツ姿が浮かび上がる。
愛「待ってあれって」※完全に酔いが覚めた様子で何度も穂乃の肩を叩く
穂乃「愛が呼んだんだからね」※じと目。愛が肩をすくめる
煌斗が車から降り、軽く頭を下げる。
煌斗「こんばんは。楽しめた?」
大人な装いの煌斗。
穂乃「はい……!すみません、来させてしまって」
煌斗「ううん、会いたいって言ったでしょ」
軽く笑って愛を見る。
煌斗「お友達も送っていくよ」
愛は腕を組み、警戒モード。
愛「あの!穂乃は本当に真面目で優しくて、いい子なんです!!遊びならやめてください!!」
クッションも何もなく言い放つ愛に穂乃は目を見開く。
穂乃「ちょ、愛!!」※慌てて止めようとするが間に合わない。
煌斗は勢いに驚いたあとで、やわらかく笑う。
煌斗「これは……手強いな」※微笑みながら、愛を見て。
煌斗「穂乃ちゃんにも、まだOKをもらってないのに。お友達にも認めてもらわないといけないなんて」
ちらりと一瞬イタズラな瞳が穂乃を向く。
穂乃(心の声)「そんな顔されても、何も言えない……」
柱:車
後ろに穂乃と愛が座る。
愛「……それで、告白されると思って遊びにいったら「彼女作る気ないけど、気軽に遊ぼうよ」って言われたんです!信じられなくないですか!?」
煌斗「それはひどいな。まあ大学3年生?だっけ、そんな年代だよな」
愛「年代とかじゃないですよ!もうとにかく最低で!」
穂乃(モノローグ)『車に乗ってものの数分で、愛の警戒心は解かれていた』
前のめりになって煌斗と話す愛をみて、穂乃はおかしそうに笑う。
目が合うと、ハッとしたように愛はまた深く座り直した。
愛「煌斗さんは、どうして穂乃なんですか?」※改めて落ち着いた声で
ミラー越しに目が合ってドギマギする穂乃。
それをみて少し表情を緩める。
煌斗「あの日、VIOLAで、介護に真面目に向き合ってる話を聞かせてくれたんだよね。
まっすぐで、優しい考え方だなって思って。それから何度か会って、その芯が本当に強く深くあるものだってわかってきて、ますます応援したくなったというか」
愛「……」※聞いているうちに、愛の表情が和らいでいく。
愛「わかります。穂乃って、そうなんです。すっごく頑張り屋で謙虚で、たまに心配になるくらい真面目」
煌斗「わかる気がする。放っておいたら無理しそうで気がかりな感じ」
愛「まさにそうで!」※また乗り出す
気づけば、愛と煌斗で、穂乃の話題が弾む。
本人の目の前で、穂乃は困ったように座っている。
柱:愛のマンションの前。
愛「穂乃〜〜〜!お幸せにね〜〜〜!」※にっこにこで手を振る。
穂乃「愛はゆっくり寝てね。ちゃんと鍵閉めてね」
二人で車からおり、部屋に入るのを見届ける。
煌斗「愛ちゃんもかわいい子だね」
当然のようにいうので、穂乃はやっぱり甘い言葉に深い意味はないんだなとちょっと残念になる。
残念になった自分に驚く。
煌斗は穂乃の表情をみて小さく笑って、助手席のドアを開け、穂乃をエスコートする。
煌斗「隣にどうぞ」
穂乃「はい」※静かに頷く。
柱:車内・夜道(帰り道)
煌斗の車が住宅街を走り出す。助手席からの景色に変化。
ハンドルを握る手の動きが滑らかで、穂乃はその横顔をちらりと見つめる。
煌斗「明るくていい友達だね」
穂乃「すみません、あんな勢いで……」※苦笑い。
煌斗「ううん。普段の穂乃ちゃんのことが知れて楽しかった」※前を向いたまま柔らかく笑う。
静かな間。
穂乃はハンドバッグの紐をいじりながら、何か言いたそうに唇を開く。
穂乃「神谷さんって、人の心を開かせるの上手」※俯きながら
煌斗「ん?ああ……仕事柄、人と話すのは慣れてるかも」※穂乃の様子を確認してからおかしそうに眉を下げて笑う。
煌斗「愛ちゃんは強敵だったけどね」
穂乃「何言ってるんですか、あっという間だったじゃないですか」
穂乃(心の声)「愛のこともかわいいって言ってたし。神谷さんにとってはやっぱり特別でもなんでもない」
落ち込んでいく穂乃。
煌斗「もう23時か。穂乃ちゃん明日、朝早い?」
穂乃「明日ですか?特に何もないですけど……」
言いかけながらハッとする穂乃。
穂乃(心の声)「これって、お泊まりをOKする意図として撮られたりする!?」※百面相
煌斗「ふふ……ちゃんと送り届けるから。ちょっと寄り道してもいい?」※おかしそうに笑う
穂乃(心の声)「絶対バレてる……!」※耳まで真っ赤にしてあわあわする
穂乃「大丈夫です」※蚊の鳴くような声で。湯気を出しながら
煌斗「あはは」※子供みたいに笑う。愛がいた時にはみられなかった無邪気な表情。
穂乃は目を丸くして、自然に二人で笑い合う。
柱:夜景の見える丘・車を降りた二人
車を降りると冷たい夜風に吹かれる。寒さに肩をすくめると車に積んでいたひざ掛けをくれる。
眼下に広がる街の光。
きらめく無数の灯が、星空のように瞬いている。
穂乃「わぁ……すごい……夜景スポットですか?」
知らなかった場所。近くにこんなところあったんだ。
煌斗「テスト頑張ったご褒美。今日まで、相当努力したでしょ?」
穂乃「そんな……学生なので当然ですよ」
煌斗「当たり前じゃないよ。穂乃ちゃんは自分をもっと褒めないと」
※穏やかに笑って、ぽけっとに手を入れながら横顔を見る。
穂乃は嬉しそうに微笑む。
穂乃(モノローグ)『神谷さんはいつもほしい言葉をくれる。安心できる。大人って言って欲しいこともわかるんだなあ』
穂乃「今日は、ありがとうございます」
※にっこりと笑う。大人びてる
煌斗「うん。あ、ちょっと待ってて」※満足気に微笑んだ後、思い出したように
煌斗は、車の後部座席から何かを取り出す。
手には小さなドライフラワーの花束。
穂乃「え……」
煌斗「お疲れさまの気持ち」
そっと受け取る。
淡い紫のすみれが詰まった可愛らしい花束。
穂乃「すみれだ……」
煌斗「好きだって言ってたよね。季節的に、生花は無理だったけど」
穂乃「ドライフラワーなんて、出来るんですね……」
夜景と花束を重ねて、幸せそうな穂乃
穂乃「嬉しいです。ありがとうございます」
煌斗「よかった」※優しく微笑む。
穂乃「すみれの花言葉のひとつに小さな幸せって言葉があるんです」※大切そうに花束を見つめながら呟く
穂乃「おばあちゃんが教えてくれたんですけどね。『どんな日でも、小さな幸せを見つけられる人になりなさい』って。その言葉も含めて、すみれが大好きで」
煌斗「いい言葉だね」※意味深な目
穂乃(モノローグ)『神谷さんには、会うたびに心がじんわり温まるような、小さな幸せを貰ってる。私、その気持ちを伝えなくていいのかな』
煌斗が、穂乃の手をそっと取る。穂乃は驚いて固まる。
煌斗「穂乃ちゃんに出会ってから、毎日幸せを見つけてる気がする」
穂乃「なに、言ってるんですか」※考えがリンクしたみたいで目をぱちくり
煌斗「本気なんだけどな……」※困ったように
煌斗「付き合わなくてもいい。君の隣で、応援させてもらえたら、それで」※眉を下げたままに笑って、手を離そうとする。
穂乃、思わずその手を握り返す。
穂乃「嬉しい、って思ってます。本当です」※精一杯の気持ちを示すように一生懸命に伝える
煌斗「ずるいな〜〜」※目を丸くした後、自分の髪にふれて、手は離さないままそっぽを向く
煌斗「それは、期待してもいいってこと?」
穂乃「あ、えっと、そう言われると、その……」※慌てて顔を赤らめる。
顔を真っ赤にして俯き、手を離そうとする穂乃の手を今度は煌斗が捕まえる。
穂乃「え……」※驚く間もなく、静かに引き寄せられる。
煌斗の腕の中。
穂乃の頬が彼の胸に触れて、心臓の鼓動が重なる。
煌斗「ダメだな。穂乃ちゃんのことになると余裕がないみたいだ。焦らせないで待っていたいのに」※困ったような声。スッと離れる。
穂乃(心の声)「言わなきゃ、本当の気持ち」
穂乃「あの、私、介護の勉強、本気で頑張りたくて。器用じゃないから、頑張りながら恋愛できるタイプじゃなくて……」※本心をぽつりぽつりと伝える
穂乃「でも、神谷さんに対する嬉しいって気持ちも、幸せを感じてることも、嘘じゃなくて……ってこんなこと言われても困りますよね」※困ったように前髪に触れる
煌斗は、愛おしそうな目で穂乃を見つめる。穂乃驚く。
煌斗「穂乃ちゃんの真面目なところ、尊敬してる。でも、俺との恋愛はそんなに真面目じゃなくていいよ。必要なときに必要なだけ甘えてくれたらいいんだよ」※一歩近づく
穂乃「そんなのダメです……私にしかメリットがない」※半歩下がる
煌斗「あるよ。今、めちゃくちゃ癒されてる」※離れようとする穂乃を捕まえるようにじっと見つめる
穂乃「なんですか、それ……」※優しい笑顔に釣られて、思わず笑ってしまう。ほっこりした雰囲気
穂乃(モノローグ)『これでもかというほどに、胸がドキドキしていた。心の奥底では、これからの未来に期待してしまっていたんだ』
穂乃「じゃあ、約束をしましょう」
煌斗「約束?」※少し見つめ合う。不思議そう
穂乃「神谷さんは、私のために無理をしないでください。私もそうします。お互い、自分の優先順位を大切にする」
煌斗「わかった。いいよ約束」※想定外の申し出に笑ってしまう
煌斗、目を細めて笑いながら、小指を差し出す。
穂乃が小指を絡ませた瞬間に、その手を引き、彼女をぎゅっと抱き寄せる。
穂乃「わっ!」
煌斗「捕まえた」
穂乃「……っ」※胸の奥がじんわりと熱くなる。
煌斗「出会った時から、君の笑顔は安心するんだ」
穂乃は嬉しくて微笑むが、煌斗の表情はどこか遠くを見つめている。
第3話終
愛「……それ、騙されてるよ」※真正面に座る愛。穂乃と真剣な顔で目を合わせる
穂乃「」※まっすぐに見つめ返す。
次の瞬間に、がくっと項垂れる穂乃。
その様子を見て、呆れたように笑う愛。
穂乃「やっぱりそう思う……?」※子犬のような潤んだ瞳
愛「流石にね〜、超慣れてそうだし。あまりにも展開が早い。二回目で付き合ってほしいなんて、絶対に遊ばれてる」
※グサグサと穂乃に言葉を突き刺して、満足したようにラテに口をつける。
中庭に面したカフェテラス。
レンガの床と、オシャレな外のテーブルに愛と穂乃が向き合って座る。
手にはホットラテ。テイクアウトにもできる紙で蓋つきのカップ。
穂乃(モノローグ)『「俺と付き合わない?」信じられない言葉だった。でも安心するその声はずっと、私の中に残り続けている』
穂乃の想像の中で、振り返って微笑む煌斗の姿。
愛「それからも会ってるんだよね?」
穂乃「うん、二回会った……」※こくりと元気なく頷く
愛「返事はしたの?」
穂乃「ううん……。しなくていいって言われたし……」※次は首を左右に振る。
回想へ
柱:告白された日の車内・夜
穂乃、言葉を失い、視線を彷徨わせる。
煌斗が小さく笑ってカラッと空気を変える。
煌斗「やっぱ急ぎすぎたね。ごめんごめん。困らせた。また気楽に、これからも会ってくれると嬉しいよ。気持ちに嘘はないから」
回想終わり
愛は怪訝な表情を向ける。
愛「あーもう!連れていくべきじゃなかった〜!穂乃に近寄る男をしっかり見定めておくべきだったよ!やっぱバーでの出会いなんてよくないよね、穂乃にはもっと良い出会い方してほしい!」※すごい勢いで
穂乃「……そ、そんなに言わなくても」※苦笑い
穂乃(モノローグ)『少し前、愛は良い感じだと思っていた海翔くんに「彼女とか作るつもりないんだよね」もっと気楽に遊ぼうよ」と言われて、ご乱心なのだ』
その時のプンプン怒っている愛のカットを入れる。
愛「いい?あんな誰でも選び放題な社会人はぜーーったいに恋愛慣れてるんだから、私たちみたいな学生に声をかける必要なんてないの。だから絶対に遊び。騙されちゃだめだからね!」
過激派の愛の勢いは止まらない。
うんうんと頷いて聞いている間にスマホの通知が鳴り、穂乃は頷きならスマホに視線を移す。
穂乃「……っ」※画面を見て、目が丸くなる。
愛「穂乃、まさか……」
敵意剥き出しの愛の隣で気まずそうに通話ボタンを押す。
煌斗「今大丈夫?」
穂乃「あ、あの……いま、友達といて……」※威嚇してくる愛を気にしながら
煌斗「それは邪魔してごめん。午後テストって言ってたから、頑張れって言いたかっただけ。頑張っておいで」
穂乃「えっ……ありがとうございます。あの、頑張ります……!」
煌斗「うん。じゃあまた」
通話が切れる。
穂乃はスマホを持ったまま固まる。
耳まで赤くなっていて、何も言えない。
愛「……」※じとーっとした目。
穂乃「な、なに?」
愛「だめだよ穂乃!心を持ってかれたら終わりだよ〜〜〜!」
※両手を広げて穂乃に抱きつく。大げさに泣く真似をする。
穂乃、思わず吹き出す。
穂乃「大丈夫だよ。私だってありえないってことわかってる」
そう言いながらスマホの画面を見つめる。
煌斗〈ちょっと緊張してそうだったよね。穂乃ちゃんならきっと大丈夫だから。深呼吸して落ち着いてね〉
メッセージに、素直な心はときめいてしまう。
穂乃(モノローグ)『わかってる。絶対におかしいって頭ではそう思うのに、心が動くことを止められない』
柱:大学近くのカジュアルレストラン・夜
テーブルの上には残り少ないグラスと小皿。
穂乃、愛ふたりでテスト後の打ち上げ。
愛は少し酔って上機嫌。
愛「穂乃〜〜もうすぐ冬休みだよ〜〜なんかして遊ぼうよお」
穂乃「そうだね、また予定立てよ」※酔っている口調に笑いながら。
穂乃のスマホが震える。
穂乃「……えっ」※一瞬で表情が変わる。
愛「まさか、またあの男でしょお!!」※大きな声で身を乗り出す。
穂乃「ちょ、愛、声が大きい〜!」
愛が奪い取ったスマホの画面。ホーム画面に通知が見えている。
《会いたい》たった四文字。
愛「えっ、やばい。こんな感じなの社会人!なんかいいなあ、もう騙されててもいいやって思っちゃうよねこんなの!いいなあ〜〜」
酔っているからか、本音がダダ漏れの愛。
穂乃「愛、お昼と言ってること違う……」※苦笑い
愛「いや、だめだ。穂乃が悲しむのは私が止めなきゃ!ガツンと言ってやる!」
※ぶつぶつと言いながら、指を走らせる愛。
穂乃「ちょ、ちょっと!?なにしてるの!」
愛「送った!お店の場所!」
穂乃「ええっ!?」※本気で焦った顔
慌ててスマホを奪い返し、必死に打ち込む。
穂乃《すみません!友達が勝手に送ってしまって!!友達酔ってて!》
ぎゅっとスマホを握って固まっている穂乃。
少しの間があって、既読がつく。
煌斗《お邪魔したら悪いから。もしよければ終わる時間に迎えに行ってもいい?》
穂乃「えっ……!」※思わず声が漏れる。
愛「ほらあ!慣れてる!!返信が完璧すぎる!!」
穂乃「それはそうだよね……」
愛「こんなスマートな返し、慣れてなきゃできないって!」※テーブルに突っ伏して嘆く。
柱:お店の外・夜
愛「だからバーはだめ!海翔くんも陸くんもすっごく遊んでるんだって!」
店の外、少し酔いが覚めた愛は、海翔くんへの恨みを思う存分吐き出して少しスッキリしたようだった。
お店の前で熱った顔を冷やすように立ち話をするふたり。
煌斗の黒い車が静かに停まる。ライトに照らされて、スーツ姿が浮かび上がる。
愛「待ってあれって」※完全に酔いが覚めた様子で何度も穂乃の肩を叩く
穂乃「愛が呼んだんだからね」※じと目。愛が肩をすくめる
煌斗が車から降り、軽く頭を下げる。
煌斗「こんばんは。楽しめた?」
大人な装いの煌斗。
穂乃「はい……!すみません、来させてしまって」
煌斗「ううん、会いたいって言ったでしょ」
軽く笑って愛を見る。
煌斗「お友達も送っていくよ」
愛は腕を組み、警戒モード。
愛「あの!穂乃は本当に真面目で優しくて、いい子なんです!!遊びならやめてください!!」
クッションも何もなく言い放つ愛に穂乃は目を見開く。
穂乃「ちょ、愛!!」※慌てて止めようとするが間に合わない。
煌斗は勢いに驚いたあとで、やわらかく笑う。
煌斗「これは……手強いな」※微笑みながら、愛を見て。
煌斗「穂乃ちゃんにも、まだOKをもらってないのに。お友達にも認めてもらわないといけないなんて」
ちらりと一瞬イタズラな瞳が穂乃を向く。
穂乃(心の声)「そんな顔されても、何も言えない……」
柱:車
後ろに穂乃と愛が座る。
愛「……それで、告白されると思って遊びにいったら「彼女作る気ないけど、気軽に遊ぼうよ」って言われたんです!信じられなくないですか!?」
煌斗「それはひどいな。まあ大学3年生?だっけ、そんな年代だよな」
愛「年代とかじゃないですよ!もうとにかく最低で!」
穂乃(モノローグ)『車に乗ってものの数分で、愛の警戒心は解かれていた』
前のめりになって煌斗と話す愛をみて、穂乃はおかしそうに笑う。
目が合うと、ハッとしたように愛はまた深く座り直した。
愛「煌斗さんは、どうして穂乃なんですか?」※改めて落ち着いた声で
ミラー越しに目が合ってドギマギする穂乃。
それをみて少し表情を緩める。
煌斗「あの日、VIOLAで、介護に真面目に向き合ってる話を聞かせてくれたんだよね。
まっすぐで、優しい考え方だなって思って。それから何度か会って、その芯が本当に強く深くあるものだってわかってきて、ますます応援したくなったというか」
愛「……」※聞いているうちに、愛の表情が和らいでいく。
愛「わかります。穂乃って、そうなんです。すっごく頑張り屋で謙虚で、たまに心配になるくらい真面目」
煌斗「わかる気がする。放っておいたら無理しそうで気がかりな感じ」
愛「まさにそうで!」※また乗り出す
気づけば、愛と煌斗で、穂乃の話題が弾む。
本人の目の前で、穂乃は困ったように座っている。
柱:愛のマンションの前。
愛「穂乃〜〜〜!お幸せにね〜〜〜!」※にっこにこで手を振る。
穂乃「愛はゆっくり寝てね。ちゃんと鍵閉めてね」
二人で車からおり、部屋に入るのを見届ける。
煌斗「愛ちゃんもかわいい子だね」
当然のようにいうので、穂乃はやっぱり甘い言葉に深い意味はないんだなとちょっと残念になる。
残念になった自分に驚く。
煌斗は穂乃の表情をみて小さく笑って、助手席のドアを開け、穂乃をエスコートする。
煌斗「隣にどうぞ」
穂乃「はい」※静かに頷く。
柱:車内・夜道(帰り道)
煌斗の車が住宅街を走り出す。助手席からの景色に変化。
ハンドルを握る手の動きが滑らかで、穂乃はその横顔をちらりと見つめる。
煌斗「明るくていい友達だね」
穂乃「すみません、あんな勢いで……」※苦笑い。
煌斗「ううん。普段の穂乃ちゃんのことが知れて楽しかった」※前を向いたまま柔らかく笑う。
静かな間。
穂乃はハンドバッグの紐をいじりながら、何か言いたそうに唇を開く。
穂乃「神谷さんって、人の心を開かせるの上手」※俯きながら
煌斗「ん?ああ……仕事柄、人と話すのは慣れてるかも」※穂乃の様子を確認してからおかしそうに眉を下げて笑う。
煌斗「愛ちゃんは強敵だったけどね」
穂乃「何言ってるんですか、あっという間だったじゃないですか」
穂乃(心の声)「愛のこともかわいいって言ってたし。神谷さんにとってはやっぱり特別でもなんでもない」
落ち込んでいく穂乃。
煌斗「もう23時か。穂乃ちゃん明日、朝早い?」
穂乃「明日ですか?特に何もないですけど……」
言いかけながらハッとする穂乃。
穂乃(心の声)「これって、お泊まりをOKする意図として撮られたりする!?」※百面相
煌斗「ふふ……ちゃんと送り届けるから。ちょっと寄り道してもいい?」※おかしそうに笑う
穂乃(心の声)「絶対バレてる……!」※耳まで真っ赤にしてあわあわする
穂乃「大丈夫です」※蚊の鳴くような声で。湯気を出しながら
煌斗「あはは」※子供みたいに笑う。愛がいた時にはみられなかった無邪気な表情。
穂乃は目を丸くして、自然に二人で笑い合う。
柱:夜景の見える丘・車を降りた二人
車を降りると冷たい夜風に吹かれる。寒さに肩をすくめると車に積んでいたひざ掛けをくれる。
眼下に広がる街の光。
きらめく無数の灯が、星空のように瞬いている。
穂乃「わぁ……すごい……夜景スポットですか?」
知らなかった場所。近くにこんなところあったんだ。
煌斗「テスト頑張ったご褒美。今日まで、相当努力したでしょ?」
穂乃「そんな……学生なので当然ですよ」
煌斗「当たり前じゃないよ。穂乃ちゃんは自分をもっと褒めないと」
※穏やかに笑って、ぽけっとに手を入れながら横顔を見る。
穂乃は嬉しそうに微笑む。
穂乃(モノローグ)『神谷さんはいつもほしい言葉をくれる。安心できる。大人って言って欲しいこともわかるんだなあ』
穂乃「今日は、ありがとうございます」
※にっこりと笑う。大人びてる
煌斗「うん。あ、ちょっと待ってて」※満足気に微笑んだ後、思い出したように
煌斗は、車の後部座席から何かを取り出す。
手には小さなドライフラワーの花束。
穂乃「え……」
煌斗「お疲れさまの気持ち」
そっと受け取る。
淡い紫のすみれが詰まった可愛らしい花束。
穂乃「すみれだ……」
煌斗「好きだって言ってたよね。季節的に、生花は無理だったけど」
穂乃「ドライフラワーなんて、出来るんですね……」
夜景と花束を重ねて、幸せそうな穂乃
穂乃「嬉しいです。ありがとうございます」
煌斗「よかった」※優しく微笑む。
穂乃「すみれの花言葉のひとつに小さな幸せって言葉があるんです」※大切そうに花束を見つめながら呟く
穂乃「おばあちゃんが教えてくれたんですけどね。『どんな日でも、小さな幸せを見つけられる人になりなさい』って。その言葉も含めて、すみれが大好きで」
煌斗「いい言葉だね」※意味深な目
穂乃(モノローグ)『神谷さんには、会うたびに心がじんわり温まるような、小さな幸せを貰ってる。私、その気持ちを伝えなくていいのかな』
煌斗が、穂乃の手をそっと取る。穂乃は驚いて固まる。
煌斗「穂乃ちゃんに出会ってから、毎日幸せを見つけてる気がする」
穂乃「なに、言ってるんですか」※考えがリンクしたみたいで目をぱちくり
煌斗「本気なんだけどな……」※困ったように
煌斗「付き合わなくてもいい。君の隣で、応援させてもらえたら、それで」※眉を下げたままに笑って、手を離そうとする。
穂乃、思わずその手を握り返す。
穂乃「嬉しい、って思ってます。本当です」※精一杯の気持ちを示すように一生懸命に伝える
煌斗「ずるいな〜〜」※目を丸くした後、自分の髪にふれて、手は離さないままそっぽを向く
煌斗「それは、期待してもいいってこと?」
穂乃「あ、えっと、そう言われると、その……」※慌てて顔を赤らめる。
顔を真っ赤にして俯き、手を離そうとする穂乃の手を今度は煌斗が捕まえる。
穂乃「え……」※驚く間もなく、静かに引き寄せられる。
煌斗の腕の中。
穂乃の頬が彼の胸に触れて、心臓の鼓動が重なる。
煌斗「ダメだな。穂乃ちゃんのことになると余裕がないみたいだ。焦らせないで待っていたいのに」※困ったような声。スッと離れる。
穂乃(心の声)「言わなきゃ、本当の気持ち」
穂乃「あの、私、介護の勉強、本気で頑張りたくて。器用じゃないから、頑張りながら恋愛できるタイプじゃなくて……」※本心をぽつりぽつりと伝える
穂乃「でも、神谷さんに対する嬉しいって気持ちも、幸せを感じてることも、嘘じゃなくて……ってこんなこと言われても困りますよね」※困ったように前髪に触れる
煌斗は、愛おしそうな目で穂乃を見つめる。穂乃驚く。
煌斗「穂乃ちゃんの真面目なところ、尊敬してる。でも、俺との恋愛はそんなに真面目じゃなくていいよ。必要なときに必要なだけ甘えてくれたらいいんだよ」※一歩近づく
穂乃「そんなのダメです……私にしかメリットがない」※半歩下がる
煌斗「あるよ。今、めちゃくちゃ癒されてる」※離れようとする穂乃を捕まえるようにじっと見つめる
穂乃「なんですか、それ……」※優しい笑顔に釣られて、思わず笑ってしまう。ほっこりした雰囲気
穂乃(モノローグ)『これでもかというほどに、胸がドキドキしていた。心の奥底では、これからの未来に期待してしまっていたんだ』
穂乃「じゃあ、約束をしましょう」
煌斗「約束?」※少し見つめ合う。不思議そう
穂乃「神谷さんは、私のために無理をしないでください。私もそうします。お互い、自分の優先順位を大切にする」
煌斗「わかった。いいよ約束」※想定外の申し出に笑ってしまう
煌斗、目を細めて笑いながら、小指を差し出す。
穂乃が小指を絡ませた瞬間に、その手を引き、彼女をぎゅっと抱き寄せる。
穂乃「わっ!」
煌斗「捕まえた」
穂乃「……っ」※胸の奥がじんわりと熱くなる。
煌斗「出会った時から、君の笑顔は安心するんだ」
穂乃は嬉しくて微笑むが、煌斗の表情はどこか遠くを見つめている。
第3話終



