柱:穂乃の部屋・朝(翌週)
一人暮らし女子(淡色系)の部屋。1K。
ベージュの布団、床に投げ捨てられた実習のトートバック。

穂乃はゆっくり目を覚まし、起き上がってぼんやり。

穂乃(モノローグ) 『夢の中の出来事みたいだった』
煌斗と瀬良、玲奈で談笑している情景を思い浮かべるコマ。
枕元のスマホを手に取る。
画面には、夜登録した「神谷 煌斗」の名前。
穂乃(心の声)「連絡したいけど、こんなすぐに……変だよね」
スマホを置き、穂乃は立ち上がって深呼吸。
秋の風がカーテンを揺らしている。

柱:大学・実習室・昼休み前(授業後)
実習を終えたばかりだというのに、後期になって実技演習の授業が増えた。
ベッドなどがある実習室。実習に励む穂乃と愛。
穂乃(モノローグ)『演習でも人の目は気になるし緊張する。
だけど、冬に再びある短期実習のためにこの演習はやりきって頑張らないといけない』

休み時間になり穂乃はノートを閉じ、ペンを片づける。
隣で眠そうに座っていた愛が顔をこちらに向ける。
愛「ねぇねぇ、VIOLA楽しかったね!」※急に眠そうな目から覚醒して楽しそうな表情
穂乃「あ、そうだね〜」※言いながらちょっと赤面
煌斗の笑顔が浮かび、手を振ってそれをかき消す穂乃のコマ
愛「私ね、海翔くんと連絡先交換したよ!来週遊びに行く予定なんだ!」
嬉しそうにメッセージアプリのアイコンを見せる愛。
海で楽しそうに笑う爽やかなピンショットでオシャレ。
穂乃「愛、本当にすごいね。憧れる」
穂乃(心の声)「私なんて連絡するのも怖くてできないのに」
スマホを握りしめる。
愛「穂乃だって、あの夜すっごく楽しそうだったじゃん」※にやにやしながら
穂乃「えっ?」※赤面
愛「スーツで大人っぽい人捕まえて、やるなあって思ってたんだよ〜〜」※からかうように
穂乃「ちょ、ちょっとやめてよ……!別に、そんな。ちょっと話しただけだよ」※頬を赤らめて手を振る
愛「えー!そんな控えめなこと言っちゃって〜。でも、ほのが楽しそうだったの見て、ちょっと嬉しかったんだから」※優しい笑顔
穂乃「ありがとう、愛」
愛「だから、その彼に連絡した方がいいって!ぜーったい穂乃のこと気に入ってたよ!」※急な乗り気
穂乃「そんなこと絶対ないってば!」※ワーワー言いながら楽しそうなふたり
一息ついて、穂乃は小さく呟く。
穂乃「でも、確かに。神谷さんと話せて、ちょっとだけ心が軽くなった気がして。これからも頑張ろうって、思えた。もうすぐ演習テストもあるし、次の実習では失敗しないように」
※手をぎゅっと握りしめながら。
愛「真面目だなぁ、ほんと。そういうところ、私も見習うよ」
※穂乃の肩を軽く叩く

席の前に三人の男子が立つ。
ゼミ仲間。教室を出るついでに寄り道をした様子で、西原夕陽、長谷部陽翔、佐倉湊が顔を出す。
西原夕陽:茶色がかった短髪に、穏やかで人懐っこい目元。
長谷部陽翔:明るめの金髪、無邪気な笑顔
佐倉湊:細縁眼鏡+透明感のあるグレージュの髪

陽翔「穂乃ちゃん、愛ちゃん、まだ残ってたの?」※明るく駆け寄ってくる
湊「ふたりも先週実習終わったとこだよな、お疲れ様」※メガネでクールに見えるけど穏やかな笑顔

穂乃(モノローグ)『私たちは2年生後期から始まったグループ活動でグループを組んでいる五人。みんながそれぞれ顔見知りだったこともあってもう仲が良くて。みんな努力家で尊敬できる人たちだ』

愛「みんなももう終わったって言ってたよね!本当お疲れ様〜〜!」※座ったままにかっと笑う
陽翔「そうだ、二人も夕陽のこと慰めてやってよ」
影から夕陽登場。子犬系でしょんぼりしている様子。
愛「なに、夕陽くんどうしたのなんかあったの?」※姉御風。夕陽のことを可愛がっているノリ
夕陽「陽翔うるさい」※可愛らしい目つきで睨んでから穂乃と視線があい、逸らす。
湊「ちょっと落ち込んでんだよね。実習うまくいかなかったんだって」
愛「あーどこぞの誰かさんと同じじゃん〜」※わかりやすくこちらを向く愛
三人の視線が集まり、穂乃は視線を泳がせる。
穂乃「おっしゃる通りで……」※肩をすくめる
陽翔「え、マジ?穂乃ちゃんがうまくいかないなんて想像つかないんだけど」※驚いた様子
湊も頷く。
穂乃「そんなことないよ……全然ダメダメでした」※苦笑して首を振る。
言いながらビストロでの反省会のときよりも気持ちが落ち着いていることを実感。
穂乃(心の声)「話せたおかげだなぁ…」※愛とともに煌斗を思い出し、しみじみと笑う
その表情を落ち込んでいると勘違いした夕陽。勢いよく身を乗り出す。
夕陽「桜庭は大丈夫だよ。いつも真剣じゃん。授業も実習も手を抜かないし。俺、桜庭のこと尊敬してるんだよ。普通にすごいことだから!自信持たなくてどうするの!」
穂乃を中心に4人そろって目を丸くする
陽翔「急に熱っ!」※無邪気なツッコミ
愛「夕陽くん、よく見てるね〜〜」※揶揄う表情
湊は何も言わずにくすくす笑う
夕陽「ち、ちがう!いや、違くないけど、あーもう!」※耳まで赤くして頭をかく。
穂乃「ありがとう、西原くん」※嬉しそうに微笑む
夕陽、穂乃の笑顔を見て、顔を赤くする。

穂乃(心の声)「ゼミのみんなも本当に素敵な人ばっかり。落ち込んでいる暇なんてないよね」前向きな感じ
煌斗の大人な後ろ姿のカット。穂乃の記憶。
穂乃(心の声)「もしまた会える時に恥ずかしくないように、私も頑張ろう」
煌斗が穂乃の頑張る先にいるような演出

柱:大学前・夕方
キャンパスの門を出る穂乃。
道路で黒い車がゆっくりと減速した。穂乃は少し警戒。カバンを握りしめる。
助手席側の窓がスッと開く。
煌斗「穂乃ちゃん?」
穂乃「えっ……神谷さん!?」※驚きで立ち止まる。
窓越しに見えたのは、スーツ姿の煌斗。
先日見たのと同じ前髪をあげて爽やかな営業マンスタイル。
煌斗「やっぱりそうだ。早速会えるなんて、ついてるな」※優しく笑う。

柱:車内・夕暮れの街道
煌斗の運転姿。助手席に穂乃。手を膝の上でそっと組む。
穂乃「びっくりしました……まさか、こんな偶然」
煌斗「近くの施設に営業で寄ってたんだ。穂乃ちゃん、あの大学かななんてぼんやり考えてたら、ちょうど見かけたから」
穂乃「え……そうだったんですね。すみません、偶然の上に送っていただくなんて」※まだ少し信じられないように目を瞬かせる。

少し前の回想
煌斗「この後予定は?」
穂乃「いえ、もう帰るところで」
煌斗「じゃあせっかくだしお茶でもどう?立ち話もなんだし」
※ウィンカーを出しながら車を端に寄せる煌斗

穂乃(モノローグ)『こんな偶然があるなんて。連絡もできないような私に、神様がちょっとだけご褒美をくれたのかな……』
回想とじる

片手でハンドルを握り、もう片手でギアを切り替える。
腕まくりした袖口から、細い腕時計の金属がちらりと光った。
穂乃(心の声)「当たり前だけど運転にすごく慣れてる。横顔かっこいい……」

赤信号。車がゆっくり停まる。
そのまま前を見つめたまま、ふっと笑う。
煌斗「そんなに見つめられると、照れる」
穂乃「えっ……!あっ、ごめんなさい」※慌てて視線を逸らす。恥ずかしくて赤面
煌斗は少しだけ視線を向け、声を低く落とす。
煌斗「顔、赤い」 ※くすっと笑う。
穂乃「な……っ!」※思わず顔をそむける。頬がじんわり熱くなる。
煌斗「そんな顔されると、運転に集中できないな」※冗談めかして笑う。
穂乃「か、からかわないでください……!」
穂乃(モノローグ)『ほんの数秒だったのに。胸の鼓動が止まらなかった』

柱:カフェ・夕暮れ時
木目調の落ち着いた店内。二人は窓際の席に並んで座る。
煌斗「飲み物、どうする?」※穏やかに
穂乃「うーん……」※種類が多くて悩む。
見た目も可愛いたくさんのメニュー。柔らかい色鉛筆のイラスト。
煌斗「ストロベリーラテとか、人気みたいだよ」
穂乃「えっ……悩んでました。じゃあ、そうしようかな」
煌斗「なんとなく、好きそうだなって思った」※微笑みながら、店員に手を上げる。
煌斗「ストロベリーラテを一つと、ホットコーヒーをお願いします」
スマートに注文をしてくれる煌斗。
対照的な色が並ぶテーブルの上。穂乃はその並びを見つめて、小さく笑う。
穂乃「並べると、なんか正反対ですね」
煌斗「確かに。でも、こうして見ると悪くない組み合わせだと思わない?」
穂乃「はい」※少し照れながら頷く。
美味しそうに飲む穂乃を見て煌斗が微笑む。
思わず見惚れてどきどきしてしまう。
煌斗「大学は楽しい?介護福祉だっけ?」※穏やかな笑み
穂乃「はい、大変なこともありますけど」※姿勢を正して、カップを両手で包む。
コーヒーを飲む煌斗の落ち着いた視線にどうしてか自然と口が開く。
穂乃「実はあの日、短期実習最終日で。自分たちへのご褒美って愛に誘われて……VIOLAに行ったんです」
煌斗「なるほど。あの夜は、そんな日だったんだ」
穂乃「はい。実は失敗続きですごく落ち込んでいた日だったんですけど、すごく素敵なお店で、それに、神谷さんともお話しできて。また頑張ろうって思えました」
煌斗「そっか」※目を細めて微笑む。
煌斗「頑張ろうって思えたなら、あの日に出会えた意味があったね」
思っていたことをそのまま言われたような感覚に、驚きつつも頬が緩む。
穂乃「はい。それに、大学にも……尊敬してるなんて、身の丈に合わない言葉をくれる同期がいて」※今日の夕陽を思い浮かべながら
穂乃「ほんと、恵まれてるなって思う数日でした」※少し照れながら笑う。
煌斗「恵まれてるって思えるのは、穂乃ちゃんが素敵だからだよ。素敵な子は素敵な人を引き寄せるんだ」※コーヒーを飲みながら
すっと心に入ってくる言葉。穂乃は幸せそうに微笑む。
穂乃「環境に恥じることのないように、ますます頑張らないとって思います。落ち込んでなんかいられないですね、おばあちゃんのためにも」
煌斗の表情がわずかに動く。
煌斗「——すみれさん?」※深い意味深な表情
穂乃「えっ……!なんで……」※本当に驚いた様子で目を見開く
煌斗「バーで言ってたよ。すみれって、おばあちゃんの名前だって」※こっちは軽く
穂乃「そんなことまで覚えててくれたんですね」※納得と共に嬉しさが込み上げる。
穂乃「おばあちゃん、認知症が酷くなってからずっと施設に入ってて。家で介護してあげられなかったんです。そのまま施設で亡くなってしまって……」
穂乃の声が少し震える。
煌斗は、ただ黙って聞いている。
穂乃「だから私、介護職につきたいんです。同じような思いをする人が少しでも減るように。在宅でも支えられる環境をつくりたくて」
煌斗は一瞬だけ視線を落とし、再び穂乃の方を見る。
煌斗「やっぱりすごいね」※やわらかく笑う。
穂乃「えっ……」
煌斗「優しくて強い。穂乃ちゃんならきっとできるよ」※真剣な顔
穂乃「な、なんでそんな……」※俯きながら、顔が熱くなる。
煌斗「本気で言ってるから」※少し笑って、カップを口に運ぶ。
外はもう夜に近い。
穂乃「いっぱい話しちゃいましたね。すみません、つい熱くなっちゃって」
煌斗「ううん、もっと聞いてたいくらいだよ」※目を細めて微笑む。
煌斗「でも暗くなってきたから、送るよ」
穂乃「……はい」※名残惜しそうに、カップを見つめる。

柱:車内・夜(カフェを出たあと)
カフェから家まではそんなに遠くない。車だと10分ほど。

穂乃「結局今日も払わせてもらえなかった」※ハンドバッグを抱えたまま
煌斗「いいんだよ、払わせてよ」※おかしそうにくつくつと笑う
穂乃「だめですこんなの!」
煌斗「俺が誘ったんだから俺がかっこつけて払いたいの。お返ししてくれるなら穂乃ちゃんから誘って」※イタズラな微笑み

穂乃は助手席で、穂乃の横顔を、運転席の煌斗がちらりと見やる。
煌斗「でも本当に楽しかった。突然だったのに付き合ってくれてありがとう」
穂乃「そんな、こちらこそ……。またお会いできて嬉しかったです」
煌斗「俺も会いたかったし」※さらっと。

少しの間を置いて、穂乃が疑問を伝える。
穂乃「どうして、一回会っただけの私にこんなに優しくしてくださるんですか?」
穂乃(心の声)「大人ってそうなのかな……ってずっと思っていたけどそれにしても優しいし完璧で……勘違いしちゃいそうになる」
煌斗「運命かもって思ったんだよね」※前を見たまま、あまり表情も変えず
穂乃「え?」※驚いたように顔を向ける。その後からかわれていると感じてむっとした表情に
煌斗「からかってると思ってる?」※その顔を見ておかしそうに笑う。

赤信号で停車。しっかり目が合う。
微笑みとは違う少し熱っぽい瞳に、目が離せなくなる。
煌斗「本当に惹かれたんだ。まっすぐに頑張ってる穂乃ちゃんの話を聞いて、俺にできることならなんでもしたいって」
穂乃「そ、そんな……」※言葉が続かず、頬が一気に熱くなる。
穂乃「おかしいです!だって、そんなたった一回や二回で……」
煌斗「応援したいって思うのに、時間が必要?」※有無を言わせないような横流しの目
穂乃「……っ」
穂乃(心の声ちょっと漏れてる)「でもそんな、こんなに素敵な人に応援してもらうなんて、それこそ身の丈に合わないし、そんなこと信じられるわけない、やっぱ変だよね……」
※グッと黙り込んでいる
ちらっと煌斗を見ふお、優しい瞳と交わり勢いよくそらす。顔は真っ赤に。
穂乃(心の声)「そんな優しい顔、ずるいよ……」
煌斗「照れてる」※笑いながら、ふっと声を柔らかくする。
煌斗「かわい」
穂乃「……っ」※声が出ないまま俯く。

穂乃モノローグ『この人の言葉一つで、心がこんなに揺れるなんて。止めようとしても、全然止まらない』

柱:穂乃のマンション前・夜
煌斗がハンドルを切り、マンションの前の路肩に寄せる。
カチカチ、とハザードランプの音が車内に響く。

穂乃「ありがとうございました」
※穂乃はシートベルトに手をかけていそいそと降りる準備をする。
煌斗「ううん」
煌斗、ハンドルの上に両腕を起き、ぼんやりと穂乃を見つめる。
穂乃は少し困惑。(おりていいのかな?ってなってる表情)
穂乃「あの……それじゃあ」
※「失礼します」と続けて車を降りようとした。
煌斗「俺と、付き合わない?」※ハンドルから体を起こし、真剣な瞳で。
穂乃「え?」※時間が止まったように目を瞬かせる。
煌斗「もう少し時間をかけてアピールしようと思ってたけど、誰かに取られないか不安になった。ごめんね、大人なのに余裕なくて」
※言葉とは印象が違って、穏やかに笑う煌斗には余裕が見える
助手席の穂乃はどう返せばいいかわからず、視線を彷徨わせる。
膝の上で指を重ねたり、ほどいたり。
煌斗は、そんな様子を横目で見て小さく息を吐く。
穂乃(モノローグ)『どういうことなんだろう。大人の冗談……?でも、そんな風にも見えなくて……』
穂乃の表情がくるくると変わる。
驚き、不安、照れ、そして少しだけ嬉しそうな笑顔。
煌斗は、その百面相を愛おしそうに見つめる。
穂乃がはっとして彼の視線に気づき、目を合わせた瞬間、頬が真っ赤になる。
煌斗「はは、可愛い」※思わず漏らすように。
穂乃「っ……!」※俯いて、顔を両手で覆う。
煌斗「ごめんね。困らせて。でも冗談じゃないから」
煌斗はゆっくりと腕を伸ばし、穂乃の髪に優しく触れる。
穂乃(モノローグ)『温かい……。息が止まりそうなのに、心が落ち着く。この人のそばにいると、不安が全部、消えていくみたい』

第2話終