王子のようなルックスの男にそんなことをされたら、女のバトルが彼を巡って起こるのは必然なのだ。

「確かにありました。メイドが私を争って、殴り合いの喧嘩になったことが。私と心中しようとして、殺しにきた使用人もいます。でも、ミリアその問題は解決しています。ミリアが感じてくれている通り、今の邸宅は安全であなたが居心地のよいといってくれるものにできていますよね」

私の予想は当たっていた上に、彼は秘密を話してくれた。
彼はただのルックスの良い男ではなく、相手に気を持たせてしまう王子なのだ。

「どんな解決方法をとったのですか? そういえば、メイドの年齢層も少し高めでベテランの方も多い気がします。メイドの数は少なめにも感じていました。平民のメイドもいますよね。ここでお金をためて親に家を買うのだと言っていて微笑ましく思っていました」

微笑ましくと言うより、羨ましく思った。
別に身分などどうでも良い、美味しいものを食べれて綺麗なドレスを着られる代償が私にとってはキツすぎた。

貴族のメリットのみを取れそうなレナード様の妻、アーデン侯爵夫人という立場は貴重だ。

「トラブルのあった時の使用人を、トラブルを語り伝えられる語り部役を残して全員解雇しました。現在、侯爵邸の給与は他の貴族邸の2倍ですが、それは待遇をよくして能力のある方を集める為です。トラブルのあった当時は1.5倍程度で、主として下位貴族の令嬢がメイドとして働いていました」

カルマン公爵邸も結婚前の下位貴族のメイドを多く雇っていた。

父が気分次第でメイドを弄ぶものだから、そのせいで多くのメイドが将来をたたれていた。

もちろん、妾になるのを目的にして父に迫る愚かな女もいた。
妾どころか5人の妻さえ幸せな顔をしていないのに、何を目指してそんな愚かなことをするのかと疑問に思ったものだ。

「婚前の貴族令嬢は夢見がちな方が多いので、雇うのをやめました。既婚のベテランメイドや平民のメイドが多いと思われたのはその為です。私は入浴や着替えは全部自分でします。極力、女性のメイドとの接触は避けています」

彼は、危機管理意識が高い。
そして、よく貴族令嬢というものを分かっている。

私も夢見がちな貴族令嬢の一人だということを、最初の3日間で見せてしまって恥ずかしい。
彼ならばハニートラップを仕掛けられても引っかからなそうだ。

「それにしても入浴や着替えがお一人でできるなんで素晴らしいです。女性のメイドとの接触を避けているのも懸命です。レナード様からする香りはなんだか、脳が蕩けて正常な判断を奪う効果がある気がするのです」

私は言いながら、自分も彼の香りに当てられた1人だということを思い出しまた恥ずかしくなった。

「私が抱きしめると、うっとりした顔をしていたのはそのためだったんですね。ミリア、したことがないことを難しいと思ってしまわないでください。入浴も着替えも、あなたのしてきた何よりも簡単なことですよ」

レナード様が私に微笑みかけてくるが、恥ずかしい姿をたくさん見せてもう顔を合わせられない。
私は再びシーツを被り、表情を隠し話し続けることにした。

「私の期待に応えようと、抱擁や、その、口づけをしてきたのですね。申し訳ございませんでした。遅かったかもしれませんが、今は夢から覚めております」

彼の性格を考えると、婚約する女性である私の期待にはできるだけ応えようとしたのかもしれない。