「愛する人を支えるのが女の仕事よ。あなたは幼くて自分のことばかり考えてしまうのね」
涙で滲んだ先に得意げに私に説教する姉と、それをうっとり見る未来の皇帝陛下であるラキアス皇子が見える。
こんなバカ男が帝国の最高位につき、多くの帝国民の運命を握るのだ。
その横には自分のことしか考えない私の姉が誰より価値のある女として寄り添う。
とてつもないホラー展開だが、私はこの展開を受け入れる以外の選択肢がなかった。
「もう、部屋に戻りなさい。帝国貴族として人前で泣くなんて恥を知りなさい」
姉に強く言われ、私は自分の無力さに打ちひしがれながら枕に顔を埋め一晩中泣き続けた。
「逃げよう。もう、こんなところにはいられないわ。公爵になれないなら、サイラスと一緒になれる」
私が一晩泣いて出した答えだった。
サイラスは子爵令息だ。
私が公爵になるとしても、身分の差で一緒になることが難しいのは明らかだった。
「サイラスなら、何もかも捨てて私と逃げてくれる。私と彼なら別に身分なんかなくたってやっていけるわ」
私は手元の荷物と宝飾品を纏めて家を飛び出す準備を始めた。
「なんだか、楽しくなってきた。女公爵になることに何で縛られてたんだろう。培ってきた知識を元に商売でもして、愛する人と暮らせるなら一番良いじゃない」
私は何とか自分を前に向かそうとした。
女公爵になると決めたのは、自分の価値を証明したかったからだ。
女性初めての公爵というのが私の価値を証明するには十分だと思った。
それくらいのものがないと、赤い瞳に生まれた私はずっと姉の陰で生きていかなければならなかった。
「愛する人と一緒になる。それが、一番の幸せよ。私ならどこでも暮らせる。自分のやってきたことを信じるのよミリア」
私は纏めた荷物をきつく抱きしめながら、公爵邸に別れを告げる決意をした。



