「今日のメイン料理をおつくりになった方はどなたですか?」
私が言うと、おずおずと出てきた若い料理人がいた。
メインを担当するのに、随分と若い。
「今日は料理長が休みだったので、私が担当しました。お口に合いませんでしたでしょうか?」
不安そうに言ってくる彼に思わず笑みが溢れる。
「逆ですわ。丁寧な下ごしらえに、確かな技術と工夫が見られて感動しているところです。骨は小さなものまで全て綺麗に抜いてあるし、焼く前につけておいたタレまで自作なのですね。どうやったら、あなたを隠しておけるのかしらと今考えているところなのですよ」
私が言った言葉に、料理人が恐縮している。
でも、紛れもなく本当のことだ。
カルマン公爵家で警戒しながら食べる料理は味を感じなかった。
アーデン侯爵家の食事は毎日のように美味しいと感じていたが、今日のは格段に違う。
「ミリア、こちらに来てください」
なぜだか、レナード様は急に立ち上がり怒っていた。
「あの、まだデザートがありますよ。お食事の途中で離席するのは失礼かと思いますが急用でもございましたか?」
本当に彼のことが分からない。
先ほどは第4皇子のことを話したら不快感をしめし、刺繍の事業をする話の時は笑顔を向けて来た。
今度は料理を褒めたら怒っている。
私は父を怒らせないように過ごして来たので、他人の感情の機微には敏感だと思っていたがうぬぼれだったのだろうか。
私がなかなか、立たないのに苛立ったのか急に彼が私をお姫様抱っこして来た。
「どうしたのですか? あの、デザートがあると確信しているのです。ここに来てから毎日デザートが出て来ています」
私はデザートを作ってくれたパティシエの好意に報いるためにも必死に彼にアピールした。
しかし、彼は無視して私をどこかに運ぼうとしている。



