レナード様は女性関係でトラブルになったことはないと言っていた。
メイド達はレナード様のような主人を前にしても、服を脱いでベットに潜りこんでトラブルになったりしないのだろうか。
それとも、そんなトラブルを一頻り終えた後で落ち着いているのが今なのかもしれない。
ここで働く人は皆、自分の仕事に真摯だ。
騎士団はお遊びみたいな訓練をしているけれど、それも平和主義のレナード様を団長としているのだから仕方がないと思えて微笑ましい。
「ミリア、本当に信じて欲しいのです。そして、今、刺繍している家紋はアーデン侯爵家のものではないと記憶していますが、あなたは他にも秘密があるのですか?」
彼が秘密という言葉を使ったのが不思議だった。
第4皇子のことは私にとっては秘密でも何でもない。
サイラスが窮地に陥っても、私はどんなリスクを負っても助けるつもりだ。
私が困った時に助けてくれた人なのだから、私が同じことを返すのは当たり前のことだ。
「私は、帝国の貴族すべての家紋の刺繍をマスターしました。刺繍のサービスや、家紋をいれたハンカチの販売をする事業がいつかできないかなと思っているのです。簡略化した家紋の刺繍もありますが、見てみますか? 安価で領地の平民に販売したりしたら面白いと思うのですが。すべての貴族夫人が、刺繍が好きなわけでも得意なわけでもありません。まずはこの皇家の紋章を入れたハンカチを姉に売ろうと思います。姉は、邸宅が買えるくらいの額を出してくれると思いますよ」
私は、ラキアス皇太子のイニシャルと皇家の紋章を刺繍したハンカチをレナード様に見せた。



