逃げ出そうと思っていたくせに、天国のようなアーデン侯爵邸の環境を手放したくなくなってしまったのだ。
彼にはただ私に無関心で、何のトラブルも犯さない夫でいてくれればそれ以上のことはない。

「ミリア、私もあなたと踊りたいと思ってましたよ」
彼が絞り出すように言ってくるが、彼が他の女たちと密着して踊る光景が蘇り不快感しかない。

「レナード王子は他のお姫様に夢中だったではありませんか。私は、自分を無視して他の方たちと踊る方と結婚しなければならないのですよ。私はこの侯爵邸での暮らしは気に入っております。あなたの目的は果たせるので、もう私に必要以上に関わらないで頂けませんか。あなたの不誠実さは目に余るものがあります」

きっぱりと私は彼に対して思うことを言った。

不誠実で簡単に嘘をついて自分の男の魅力で女など、どうにでもなると見下している。
本当にこれ以上彼といると彼を嫌いになりそうだ。

「ミリア、挽回の機会は頂けないのですか?」
彼が潤んだ瞳で私を見つめてくる。

一瞬で人の心を掴めるような彼の美しさが嫌になる。