私を利用ばかりしていて私は彼女を憎んでいるはずなのに、そのような気持ちになる自分が不思議で仕方がない。
「私がステラ皇太子妃を賢いと思っていると感じるのはなぜですか?私たちの会話を聞いていたのですか?」
レナード様は慌てると失言をすることがある。
今の会話で、私は彼が姉と通じていたことと、姉が彼には賢さを見せていたことが分かってしまった。
やはり、私に執拗に彼が迫ってくるのは姉からの指示だということだ。
アーデン侯爵家の居心地がいくらよくても、姉に屈する彼には心を開きたくないと本能的に思った。
「頭の悪い魔女が登場する話を、聞いたことがないからです」
なんだか、急激に彼と距離を置きたくなった。
私の心はいつだって振り幅が激しくてコントロールが難しい。
すぐに怒りを感じるし、落ち込むし、だから誰かに支えて欲しいと思うことがある。
でも、私が支えて欲しいのは相手は姉の手下になるような男ではない。
「そういえば、第4皇子がエスパルに出兵になったそうですが、道中、途中の橋が崩落してしまったそうです」
私は自分の計画がうまくいったことにホッとした。
「そうですか、行方不明になった皇子殿下が見つかるとよいですね」
私が彼に目線をやりながら言うと、彼が珍しく怖い顔で私を見つめていた。
美しい人の怒った顔はやはり美しい。
「ミリア、私は第4皇子が行方不明になったとは一言も言っていませんよ? 彼を他国に逃しましたか?」
私は人のことを言えないようだ。
慌ててもいない静かな気持ちの時でさえ、私は失言してしまった。
こんな簡単に失言してしまうのだから、私にカルマン公爵は務まらなかったかもしれない。
今の快適な環境を思うと、姉に感謝してしまう。
姉は隠居生活で遊びたいと言っていたが、今思えば、あれはラキアス皇太子の気を惹くリップサービスだった。



