「ご自分のことをそんな風におっしゃらないでください。あなたは社交界の中心で、社交界の華ではありませんか?」

私は女性を慰め癒さなければならない、天命でも受けて生まれたのだろうか。
自分を卑下するようなことを言われると、気がない相手にでも優しい言葉を吐いてしまう。

それによって、多くの女性に気を持たれトラブルになることもあった。
しかし、目の前の女とミリアは自分に簡単に落ちる女ではないことだけは分かっていた。

「私が社交界の中心ですって? 本当にそう思っていますか? 社交界の中心はあなたが踊りたくても、近づけない壁際の彼女なのは明らかでしょう」

彼女の目線の先には政界の重鎮に囲まれ会話しているミリアがいた。
彼女がダンスをしているのを、記憶の中では見たことがない。
自分の不在時に彼女とダンスした男はいるのだろうか、想像するだけで胸が張り裂けそうになる。

侯爵令息にすぎなかった自分が、名だたる貴族の会話を中断させて彼女にダンスを申し込むことなどできなかった。
アーデン侯爵となった今ならできるかもしれない。

自分とダンスをすることを待つお節介なバカ女が作った列させえなければ。