血筋や男尊女卑の思想をもったカルマン公爵の考えを変えるような能力を、類い稀なる努力を持って赤い瞳をした女性であるミリア・カルマンが示したのだ。
彼女ほど必死にがむしゃらになったことが自分にはない。

「なんですか、この曲は聴いたことがない。とんでもない超絶技巧ですね」
その時、恐ろしいほどの情熱に溢れたピアノ曲が耳に入ってきた。

「ミリア・カルマンですよ。ピアノも得意なようです。自作の曲でしょう。本当に天才というものは羨ましいですよね」

呑気に言う教師を放って、音楽室に足を急いだ。
怒り、悲壮感、情熱、様々な感情が入り混じった曲。
ピアニストもゾッとするような技巧を持ったテクニック。

「ミリア、あなたは何者なのですか?」
私は思わず呟いていた。
女性などうんざりだった、頭が軽くて着飾ることばかりに夢中だ。

音楽室に到着した時、突然演奏が止まった。
「カルマン公女、先ほどの曲はなんという曲ですか?」

また、彼女に付きまとっている男がいた。
彼は2日前、確か彼女に振られたはずだった。
その時に、あっさりと引き下がったように見えたから素性を調査することも彼女に近づかないように釘をさすこともしなかった。

「『2度と、私に話しかけないで』という曲ですわ」
彼女は優雅に椅子からたち、ゆっくりとお辞儀をする。
その所作の美しさに思わず見惚れてしまう。