茶髪に赤い瞳に可愛らしい見た目。
あんな見た目をして、男ばかりのアカデミーに入れば苦労するだろう。
誰もが自分も彼女の側に立てるのではないかと勘違いするような、守ってあげたいと思わせるような保護欲を唆るルックスをしている。

「あれが、ミリア・カルマン?」
思わず呟いてしまった。
狡猾なカルマン公爵、美しい棘だらけの魔女のようなステラ・カルマン。

次女のミリア・カルマンはあんな幼さを残した可愛らしい子だったのか。
心配になって思わず近付こうとした時だった。

告白した男が振られたことに腹を立て、彼女を無理矢理に押し倒そうとしていた。
思わず彼女を助けようとした時に、聞こえてきた低く揺るぎない声に動けなくなってしまった。

「おやめください、ご自分のために。あなたの目の前にいるのは、あなたが触れて良いような女ではありませんよ」
空気が恐れをなしたように震える。
先ほど彼の告白を断っていた小鳥のような声とは程遠い、呪われそうな声。

彼女の目の前にいた、告白した令息は震えながら去っていった。
これ以降、彼が彼女に近づくことはないだろうか、私は不安になり令息の素性を調べ彼女から遠ざけることを心に誓った。

「レナード様、聞いてください。ミリア・カルマンは本当にお母上エミリアーナ様以来の才女です。入学以来、成績は他の追随を許しません。才能があるって素晴らしいですね」
数日後、興奮気味に話す教師に辟易した。

最初にミリアを見て以来、彼女のことが気になりその行方をずっと追ってしまった。
彼女は休みも惜しまず、お昼も取らず机に向かい勉強をしていた。
私は自分が幼い頃から、才女と呼ばれた母上を見てきた。

生まれながらに他者と比べ物にならない能力をもっていただろう母上は、彼女のように必死に机に向かうことなど決してない。
片手間に書いた経済書がベストセラーになってしまうような人だ。

「ミリア様はただの才女ではないと思いますよ」
彼女は才女ではない。
周りの人間に才女と思わせてしまわせるような、とてつもない努力をする人なのだ。

「ただの才女ではないのは分かっていますよ。彼女はカルマン公爵になる人ですから。女性が公爵になれる時代がくるのです」
まるで歴史が進んでいるかのように話す教師に辟易した。

歴史が進んでいるのではない。