こんな完璧な人の前で、私は弱みは見せられない。
それに彼のような男の妻になったら、女性関係のトラブルに巻き込まれるのは不可避だ。
冗談じゃない、そんなことには巻き込まれたくはない。
私は5人の妻たちが病的にいがみ合うカルマン公爵家で育ち、そういったことにはうんざりしているのだ。

「最初から、ミリアは私に興味などないでしょう。私に興味を持ってください、知ろうとしてください。確かに強引にあなたに迫りすぎて、戸惑わせたかもしれません」

馬車を止めてくれる気はないようで、彼は私を説得しようと隣に座ってくる。
私は、彼から離れようと一歩分遠くに座り直した。

「興味は持っていましたよ、3日間は。ただ、3日間あなたについて知って、興味がなくなったのです。正直、アカデミー時代はレナード様に憧れてました。でも、あなたの程度を知り、失望しています。もう、私の方はあなたに用はありませんので、邸宅までお送りいただく必要もございません」

はっきりいって、彼とはもう関わりたくはない。

彼と結婚することが既定路線で逃れられないものだとしても、深く関わらない方が良い。
父に彼を引きずりおろすように言われた時に、情など持ちたくはない。
彼の優しい家族まで見せられてしまって、正直困惑している。

「私はずっとミリアが好きでした。あなたがアカデミーに入学してきたころから、あなただけを思っています」

一度も話しかけてきたこともないのに、彼は何を言っているのだろうか。
入学して半数のクラスメートに告白され、上級生からも告白された。
その中に彼はいなかったではないか。

「私にあなたを惹きつける魅力などありません。そんなに公女と結婚したいですか?私と婚姻を結ぶリスクはお伝えしたはずですよ」

私は自分が彼のような男を惹きつける程の魅力を持っていないと分かっている。

「ミリアは十分魅力的です。あれだけ異性から愛を乞われても自分の魅力を信じられないのですか?ならばミリアが魅力的だと言ってくれた私が、あなたに夢中だということはあなたの自信になりませんか?」

私に夢中な演技をしているだけの男が、何を言っているのだろうか。