自分の魅力を熟知していて、まるで何もかも知ったかのような顔をして近づいてくる。
危うく、この私まで引っかかるところだった。
「私は何もかもサイラス・バーグに勝っているなんて思っていませんよ。まず、わかりやすいところでミリアと過ごした時間の長さで負けています。でも、ミリアが彼と結婚するつもりなど本当はなかったことは分かりますよ。ミリアは彼に興味を持って接してましたか?彼の家庭環境、家族構成、どんな趣味を持っているかなどを尋ねたことがありますか?」
レナード様の問いかけの目的がわからないのに、私の心はざわめきはじめていた。
サイラスと私は4年もの間、お付き合いをしていた。
共に学び、高め合い、壁にぶつかった時は慰めあって過ごした。
私と似たような目標を持つ同士だ、私は涙も彼にだけは見せられた。
「家庭環境、家族構成、趣味なんて聞いたことがありません。私は自分が聞かれたくないことは、人には聞きません。そんな質問必要ですか? 私なら聞かれたくありません」
自分の家庭環境を思い出し、心が酷く落ち込んでいく。
「結婚相手に対しては必要な質問ではありませんか? 私の家庭環境や家族構成は婚約者であるミリアには当然お見せしました。私の趣味は音楽鑑賞で、一番好きな演奏家はミリア・カルマンです」
彼は何を言っているのだろうか、私は確かに幼い頃からピアノを必死でやってきた。
それは、父が習い事として私に許してくれたからだ。
習うからには周囲を黙らせるような演奏をし、トップをとるようにと言われた。
不思議なことにピアノを弾いている時はトップを取らなきゃいけないという重責や、日頃差別され悲しい気持ちを忘れられて没頭できた。
しかし、私は演奏家ではない。
貴族たちの前で演奏を披露したことはあるが、記憶を辿っても彼が私の演奏を聴く機会があったようには思えない。
そんなことはどうでも良い。
彼が私の暮らしてきたカルマン公爵家がどんな家なのか理解しておらず、自分の恵まれた家庭環境を見せて満足しているのが許せない。



