彼女は本を最近も出版していたが、ずっとエミリアーナ・クラリスという名前を使っていた。
社交界で彼女を見かけた覚えはない。
アーデン公爵夫人であったなら、社交も夫人の仕事だろうに。
でも、彼女がダンスやくだらない話をしているくらいなら一冊でも多くの本を出版してほしいと言うのがファンの希望だからどうでも良い。
後継者のアカデミーに通っていたのに、クラリス伯爵家を継がなかったということにも疑問が残る。
私もアカデミーを卒業しながら、家を継がないのだから人のことは言えない。
結局、その日は夜遅くまで彼女と話し込んでしまった。
日帰りで帰るはずだったのに、なぜだか湯浴みを済ませ部屋を用意されている。
「はー、最高に楽しかったわ」
私がベッドに横たわりながら呟くと、私を惑わす香りに包まれていることに気がついた。



