彼の周りに着飾った美しい女達が群がっている光景を嫌と言うほど見てきた。
そんな女の群れを掻き分けて、私の元に来てくれて話しかけてくれる妄想くらいはしてきた。
そんなことは一度もなくて私は話しかけてくる老齢の貴族達と話して、彼と踊ることなどなかった。
みんなの王子様、レナード・アーデン。
失墜することなど望んでいないし、これからもその美しさと温和な性格で周りを癒してあげて欲しい。
「ちょっと、おやめください」
私は懸命に彼を突き飛ばそうとしていた。
彼にまた頭がおかしくなるような大人の口づけをされていたからだ。
でも、彼が離れてくれることはなかった。
彼の力が強過ぎてそれは叶わなかったからだ。
「ハニートラップかけてください。ミリアのハニートラップにかけられたいです」
彼が一瞬口づけをやめて、息を切らし余裕のない感じで私に言ってくる。
「ちゃんとかけてます。私の言うことを聞いてください。私をあなたの妻にして良いことなど一つもありません。あるのはリスクだけです。カルマン公爵はあなたの失墜を狙っています。」
私は懸命に彼の胸元を掴んでいった。
気がついて欲しかった、自分が置かれている危険な状況に。
私はレナード様と結婚したとしても、父から彼を引きずりおろすよう言われれば命令に従ってしまうだろう。
それは、私が彼を愛しているとかいないとかは関係なく、私がカルマン公爵家に生まれたことから発する使命だからだ。
「ミリアと結婚することで、私が墜ちるということですか。それが、あなたを手に入れることの代償なら足りないくらいです。私は喜んで受け入れます」
私はもっと賢くて、そこらへんでお茶ばかりしている貴族令嬢とは違ったはずだ。



