彼の驚いた顔が見られた。最後かもしれないけれど本当にどんな表情も素敵だ。

「カルマン公爵家はあなたの想像もつかないような悪いことをしていて、皇権を狙っております。皇帝派の首長でありアーデン侯爵であるレナード様はまさに突き落とすべきターゲットです」

私は声をひそめるようにして彼に伝えた。
彼が顔を近づけて真剣に聞いてくれている。
本当に良かった、これで彼を破滅の道に導かないで済む。

「婚約話が持ち上がった時に、拒否するべきでした。でも、今でも十分間に合います。私のことが気に食わなかったとでも言って、この話をなかったことにするのです」

これが私に彼にしてあげられる全てだ。
私といて彼にとって良いことは一つもない。
彼は対立勢力の女を妻にして、危険がないと思うほど愚かな男なのだろうか。

それとも危険に気がつかない程、私に惚れていた?
さすがに、そんな勘違いをする程私は自惚れていない。
姉のように紫色の瞳も持ってないし、人に夢中になってもらえるような魅惑的な女ではない。

価値がない自分にあがないながら、必死に自分の存在を確認しようと足掻いているだけの飾り気のない私。
社交界で着飾った美しい令嬢たちと踊ってばかりいるレナード様の目にとまるような美貌もない。