「私は野生動物か何かですか? それにしても、今までハンカチを様々な令嬢から受け取り続けて、よく殺傷沙汰になりませんでしたね。誰にでも良い顔をしていることは良い結果を生まないのでやめた方がよいですよ。好きな相手から好かれれば良いではありませんか」
私は彼がトラブルに巻き込まれるのではないかと思い注意した。
すると、突然抱きしめられて彼の甘い香りに包まれた。
「心配をしてくれてるんですね、ミリア。確かに、誰にでも良い顔をして好かれるよりも、ただ一人の愛する人から好かれたいです。ミリア、あなたに愛されれば、他の全員から嫌われても構いません」
私の耳元で囁いてくる、彼の声が程よく低くて気持ちが良い。
彼は自分の魅力を熟知していて、それを最大限に生かす術を知っていそうだ。
私はこんなダイレクトに感覚を侵食するようなアプローチを受けたことがない。
いつだって、私に告白してくる相手は緊張していて余裕がなかった。
だからこそ、その告白は意を決してしてきている本気のものだと思えたところもあり、時間を割いて誠実に対応してきたのだ。
それなのに、彼の百戦錬磨のような手慣れた口説き方はなんだ。
私の為に貞操をとっておいたなどと、前回も冗談を言っていたし本当にふざけている。
こんなものに引っかかってしまえば、自分は軽いバカ女だと自己紹介しているようなものだ。
「何、勝手に抱きしめているんですか。離してください。私達まともに話すのが2回目なのに、レナード様の距離感はおかしいです」
私は彼に離れるように抗議する。



