私は彼のフェロモンのような香りにあてられると、なんだかおかしくなるのだ。
「ちょうど、旅の準備もできているようですし泊まりで行きますか?」
彼が私の顔を覗き込みながら言ってくる。
彼の碧色の瞳に顔を赤くした恋する女の子のような私が映っていて嫌になった。
「私はアーデン侯爵夫人になるべく、紅茶を入れる練習や刺繍の練習をしなければならないので忙しくて行けません。後継者教育ばかりだったので、そちらの方はさっぱりですから」
私は彼から顔を背けながら言った。
「ミリアは私との結婚の準備を考えているんですね、なんといじらしい。でもね、ミリア、紅茶は私が入れるのが得意なので教えられますよ。ミリアも刺繍に興味があるのですか?令嬢たちは刺繍をしたハンカチをよく渡して来ますよね」
レナード様の嬉しそうな瞳にときめいていたら、彼のお付きの人が私に一礼し私の荷物をどこかに持って行って呆気にとられてしまった。
「今、私の荷物をどこかに持ってかれたんですが、泥棒ではなくレナード様のお付きの方ですよね?それより、レナード様は令嬢から刺繍されたハンカチを受け取っているのですか?」
情報量が多くてパンクしそうになりつつも、私は聞きたい2つのことを慌てて尋ねた。
「泥棒って。ミリアは本当に面白い人ですね。荷物を馬車に先に積み込んだだけですよ。ハンカチは渡されたら受け取るようにはしてますよ」
口に手を当てて笑いを堪える彼の仕草が本当に優雅だ。



