私は生まれてから、今まで首都から出たことがない。
しかし、アーデン侯爵領が裕福で首都のすぐ隣に位置していることを知っている。
アーデン侯爵家は建国以来の一番の忠臣で皇帝派の首長だ。

カルマン公爵家は皇家と婚姻を重ね繋がりを深め、仄暗いことをしてのし上がって来た。
カルマン公爵家は貴族派の首長で、父は皇帝派の失墜と皇権を狙っている。

カルマン公爵領は割と南の田舎にあって、私は行ったことがない。
将来、公爵になるためにカルマン公爵領には出向きたいと思っていたが公爵領は遠いのだ。

父に言われて私に近づいているなどしたら、彼はかなりの愚か者だ。
後継者教育を受けている私は父のスパイにもなりかねないからだ。
結婚して彼のサポートをするどころか、彼を引きずりおろすリスクがあることに気がつかないのだろうか。

「アーデン侯爵領は日帰りでも行けるし、時間を大切にするミリア向けの領地だと思いますよ」
彼がすっと立ち上がり、私の隣に座って来た。

立ち居振る舞いが、王子のようで本当に美しい。
彼には近くに来ないで欲しい。