「ミリア、君はアーデン侯爵夫人として幸せになれるよ。君がカルマン公爵になる未来があったとしても、俺たちは一緒にはなれなかった。最低でも伯爵以上の相手じゃないと、君の父上は結婚を許さないだろう。君も本当は分かっていたよね? たとえ夫婦として寄り添えなくても、必ず君を支えるよ。君が俺と一緒にいるために持っているものを全て捨てると言ってくれたことを一生忘れない」

彼が私が泣かないように、私の目元を押さえながら話してくる。
いつもなら自分の前なら思いっきり泣いてよいと言ってくるのに、わざと距離を置いている。

「嘘だったのね。私のためなら全てを捨てると言ったこと。私を振るの? それなら嘘でも私に嫌われるように振る舞いなさいよ、卑怯者!」

私は声を絞り出すようにして彼に言った。

「嘘をついてもミリアには分かってしまうから、本当のことしか言わないよ。俺はこの世界の誰よりも君に幸せになって欲しい。俺が一番尊敬する男の妻になって、幸せな姿を見せてよ」

サイラスはレナード様のようになりたいと常日頃から良く言っていた。
レナード様は成人すると同時に爵位を継承できるほど優秀で、確実に将来は帝国の中枢で力を持つだろう。
人望もあって、誰からも尊敬されている男だ。

そんな完璧な彼に憧れはするけれど、彼の妻になり側で寄り添っている自分を想像することができなかった。
私はサイラスとの関係で、人から必要とされる喜びを知ってしまっていたからだ。
レナード様が口でなんと言おうと、彼に私が必要だとは到底思えない。