「今日で建国して7日目だ、友人だからといって彼が皇帝になるのを手伝ったのは失敗だった。でも、彼は大事なお客様でもあるから邪険にはできない。なぜ、宰相など引き受けてしまったんだ。私の頭脳はハンカチも買えないような給与とは到底見合わない。皇帝陛下の判断は遅い上に、地位を得たことで女が寄って来て女遊びに夢中だ。金が女に流れていく、金は女から巻き上げるものだ。友人として陛下に助言してやりたいが、お客としての彼の価値が上がっている。彼が女をたくさん囲ったことで、彼は金を私の宝飾品店で相当落とすようになった。私は彼を友人として見ることをやめた。とりあえず、給与を受けとらず帝国運営に関わることを宣言した。これで、アーデン侯爵家は無報酬で帝国に尽くす家紋として名声が上がり、ますます私の事業は軌道に乗る。それにしても時間を取られ割りに合わない⋯⋯」

レナードの甘い声から語られた手記とは日記のようなものだった。
彼はその手記を丸暗記しているようだ。
確かに色々と学ぶべきところがある。

「後世のために手記を残されるなんて立派な方だったんですね。建国の際は、宰相はまだハンカチも買えないような給与しか頂けなかったのですか?」

私が言った言葉にレナードが笑いを堪えている。

「ミリア、当時の宰相でもハンカチどころか、1年働けば邸宅が買えます。ただ、事業で儲ける金に比べたら、雀の涙のようなもので拘束時間が長い。そのため当時のアーデン侯爵は宰相になったことを後悔しています」

「金が何かはわかりました。財産のことですね。地位より財産を増やすことを重んじる家紋だからこそ巨万の富が築けた。確かにアーデン侯爵家が中央の要職を抜けたところで帝国一の富と伝統を持っていることには変わりません。だから、余計な要職などにつかず、財産を増やすことをしたかった。アーデン侯爵家の後継者争いが激しいのは、皇帝派の首長として政治に関わりたいからではなく本家の財産やブランド力を得たいという解釈でよろしいですか。アーデン侯爵家繁栄の秘密を教えて頂きありがとうございました。やっと家族になれたようで嬉しいです」

私は彼の家門の秘密を教えてもらえたことが、嬉しくてたまらなかった。