「何をなさるんですか、していいことと悪いことがありますよね。随分と女慣れなさっているんですね。レナード様は⋯⋯」
私は変な感覚に陥っていた。
突然の口づけにときめくような気持ちとサイラスへの罪悪感、それとレナード様が女慣れしてそうということにショックを受けている。
とにかく今は名前で呼ぶ約束を破らないために彼を名前で呼んだ。
それが今のぐちゃぐちゃな私にできる精一杯だった。
「ずっと触れてみたかったミリアの唇に触れさせてもらいました。ミリアにとっては罰でしたか? 私はずっと前からミリア一筋で、貞操を守り続けてますよ」
緊迫した雰囲気になっていたのを破るように、彼は私に笑いかけながら言ってくる。
確かに気持ちよかったが、だからなんなのだ。
私はサイラスを今の彼の行動により裏切ってしまった。
「貞操を守り続けてるって、貴族令嬢じゃあるまいし。結婚したら妻をたくさんとって情婦も抱えて好き放題するんですよね」
私は自分の父、カルマン公爵を思い浮かべながら言った。
父は複数の妻だけでは飽き足らず、情婦もたくさん抱えている。
権力を持った男とは所詮そういうものなのだ。
そして、私も父の抱えた複数の妻の1人が産んだ子に過ぎない。
だから利用されて、駒にされている。
それだけのことだ。
「ミリア、私を信じてください。私はあなただけを愛しています」
美しい瞳に美しい声で私に告げてくる彼を私はあえて冷たく見据えた。



