まだ彼の見た目や香りや、甘い声色に感覚を侵され心臓の音がうるさい。
それでも、私はそんなくだらないものに屈する女ではない。
ずっと苦しい時に寄り添ってきたサイラスが私にはいる。
「あと、一回で約束を破ることになりますよ」
レナード様が私をじっと見つめてくる。
破ったらどうなると言うのだ。
馬鹿馬鹿しい、私は公女だ。
彼に言うことを聞かせられる身分でもない。
「アーデン侯爵、立場をわきまえ⋯⋯」
私が言葉を言いかけると同時に口づけをされたので最後まで言えなかった。
したことがないような大人の口づけに膝がガクガクする。
立ってられなくなって、膝から崩れ落ちた私を彼が支えた。



