彼は女性に優しい人。
だから彼は婚約破棄する際に私に対して愛がなくても、私が傷つかないような理由を見つけてくれそうだ。
そして、私は彼との婚約破棄の後、彼の店の太い客になることが期待されているのだろう。
特別私に時間をかけてきた根っからの商売人気質の彼は、その時間の価値に値するお金を私から巻き上げるつもりだ。
私に良い思い出だけを残すことで、彼との思い出に浸って彼の経営する宝飾品店に足を運ばせる。
事実、私は他の店の10倍以上の値段でもレナード様の店の商品を買いたいと思っている。
金遣いが荒くない地味な貯金の多そうな公女である私は、彼の太い客となるだろう。
しかし、このお金は私が他国で暮らすために貯めてきたもので申し訳がないが彼には渡せない。
私は彼の心遣いをも利用し、彼には利益をもたらさない。
彼を利用し尽くし駒扱いする。
「あと、バーグ子爵領の鉱山からエメラルドが出たので、それをレナード様の宝飾品店で売ってもらえませんか。レナード様の宝飾品店は他店の10倍以上の値段なのに飛ぶように売れると風の噂でお聞きしたのです。それは、レナード様が類稀なる努力によって勝ち取ったブランド力によるものだと存じ上げています。私にはその収益の1部を分けてもらえるとありがたいです」
ここでも私は彼を利用することにした。
「もちろん良いですけれど、ミリア、泣きそうな顔をしています」
彼が私の頰に触れて来る。
私は彼のことが好きなんだと思う。
本当はずっと前から彼のことだけを思っていた。
「レナード様の瞳の色はエメラルドですか? 本物をもしお持ちでしたら比べさせて頂いてもよろしいですか?」
私は彼に私の感情がバレる気がしたので話題を変えた。
彼が持ってきたエメラルドは彼の瞳の色とは異なっていた。
「月の光の下でレナード様の瞳を見たいのですが、一緒にバルコニーに出ても良いですか?」
私は彼の瞳の正確な色の変化を見ようとした。
「では、私がお連れします、お姫様」
彼がエスコートしようとして差し出した手に震える手を重ねた。
「あれ、新月ですね。でも、星が綺麗ですよ、お姫様」
彼が今日、やたらと私をお姫様扱いして来るのは私がそれを望んでいるからだろう。
別れを告げられる時が近づいているのかもしれない。
「ステラです。姉の名前のステラは星からとったのですよ」
私が星を見て言った言葉に彼が急に私を抱き寄せてきた。
「悪い魔女の話より、私はお姫様の話が聞きたいです」
彼の香りと声に私は胸の高まりがとまらなくなる。



