彼女と踊りたくて頭がおかしくなりそうだった。
アーデン侯爵と踊りたかった令嬢たちが彼から今日は一緒に踊れないと言われ泣き出していた。
ミリアはレナード・アーデンと彼女たちをバルコニーに追い出した。
俺は我先にと何事もなかったかのように彼女にダンスを申し込んだ。
「ミリア、アーデン侯爵に他の令嬢と踊らないようにと言ったの?」
踊りながら俺が尋ねた言葉にミリアが面白くなさそうに言う。
「ただ、帝国の貴族令嬢として人前で泣くのはよくないと注意しただけよ。お姉さまのお祝いの席なのに⋯⋯」
彼女は気がついているだろうか、自分が公爵の恐怖の支配からは抜けているが、もう1人彼女を洗脳しコントロールしている人間がいることを。
「皇帝陛下の即位を祝う日だよ。ミリア。ミリアは皇后陛下のことばかり考えている自分に気がついている? 彼女は君を洗脳する魔女だよ」
俺は彼女の王子様にはなれなかったが、彼女のナイトにはなりたいと思ったのだ。
祝いの席で小声でもこんなことを囁いたら消されるかもしれない。
でも、命を捧げる覚悟がないとナイトにはなれない。
これからミリアとは簡単には会えない、少ない機会でも活かして彼女の姉による洗脳を俺がといてやる。



