「私は彼女が産んでくれなければ、ここにいない存在なのよ。毒と分からせて飲ませるのがカルマン公爵家だとみんな言うでしょ。カルマン公爵夫人も妊娠した他の妻や情婦に毒と認識させた上で自発的に毒を飲ませて子を堕ろさせてた。私の命は、お母様が必死で守ってくれて誕生したのよ」

要塞のように囲まれ、騎士団に囲まれたカルマン公爵家で噂通りのことが起こっていて俺は震撼した。

毒と認識させた上で自発的に毒を飲ませ、精神的に支配するということだ。
その行動を後悔した時は自責の念で狂いそうだ。

彼女はそんな恐ろしい場面を何度も見て来て、自分の母親は知恵を出し出産までこじつけたと想像しては感謝しているのだろう。

そして、破滅する魔女を意味する呪われた名前をつけられても母の恩を感じる彼女が愛おしくて仕方がなかった。

「それにしても、ミリアってロマンチストなんだね。童話とかロマンス小説とか読んだりするの?」
妄想を巡らせている彼女が可愛らしくて俺は尋ねた。

「私はそういうのは読まないわ。意外かもしれないけれど、姉がそういうのが大好きなのよ。少女っぽい可愛いところがあるでしょ。こっそり、のぞいてみたけれど人魚とか出てくる話で面白さが分からなかったわ。私は政治や経済の本を読む方が好き」

人魚では彼女は自分を投影できないから、興味が湧かないのだろう。
そして、結婚でハッピーエンドにしないあたり本当に童話をあまり読まなそうだ。

彼女は自分とレナード・アーデンを当てはめて物語を妄想できるのだから、現実主義だと自分では思っていても実は夢見る少女だ。

「ミリアって帝国脱出願望がありそうだね」
俺は軽い感じで彼女に聞いてみた。