しかしながら、彼女のいう通りだ。
私のような姉の影に隠れた女が認識などされるわけない。

「今、ショックを受けているでしょう。勘違いしないでね。アーデン侯爵が社交界デビューを済ましていたあなたに気がつくのは物理的に当然なの。背の低いミリアが壁際で貴族達に囲まれていたら、舞踏会で最初から最後まで令嬢と踊っている彼には目視確認できないわ」

姉は私の気持ちがわかっているようだ。
でも、第4皇子は私にダンスを申し込んでくれた。
レナード様は他のお姫様に夢中だっただけ。

「アーデン侯爵が自分をダンスに誘わなかったことを非難しているの?彼がどうして令嬢の相手をしなければならないと思う? 彼が父のような女好きに見える?」

黙りこくっている私に姉が畳かけてくる。
どうして令嬢の相手をしなければならないかは理解できないが、レナード様は父とは違う。

「スポットライトとはなんでしょうか?」
私は何を質問しようか、何を質問すれば姉の気分を害さないかを考えたあげくに一番よく理解できなかった単語について尋ねた。

「レナード・アーデンは自然発光できる稀有な男。誰もが彼を見ると彼しかみえなくなる。そんな男が、あらゆる偶然的事象によりあなたに片思いを4年もした。ただでさえ男しかいないアカデミーに首席入学した上に帝国唯一の公爵家の娘なのよあなたは、スポットライトを持っている意味が分かるわよね。周りはあなたの噂で持ちきりになるし、当然、女にうんざりしている彼の耳にもあなたの存在は聞こえてくる。認識もしていなかった軽蔑している家紋の次女が、飾り気のない保護欲をそそる女だった。気になった彼女は、すぐに他の男にとられてしまう。1度でも話してみたいのに近づけない。女などいくらでも寄ってくるのに、彼女にだけは触れられない⋯⋯」

姉がレナード様を評価していて、私と結婚させたいのは自分の子を私の子に支えさせたいからだろう。
レナード様の美形で優秀な遺伝子を持つ子に期待しているのだ。

「アーデン侯爵は女性に優しいと思うのですが、うんざりしているのですか?」
私は、レナード様は周りの人、特に女性に優しいと思う。
なぜだか、私はそれが嫌で仕方がない。

「舞踏会の最初から最後まで、よくわからない女と踊り続けてうんざりしないとでも?アーデン侯爵がなぜ女性に優しいか考えたことがある? 彼は周りの誰にも優しいでしょ。それは、全ての人が彼のお客様だからなのよ。皇族の顔色だけを伺えばよいカルマン公爵家とは違う、アーデン侯爵家は広く事業を展開している分、あらゆる身分、年代の人に素晴らしい人間だと思われなければならない。もちろん、彼の妻になる人間もそうでなければならない。」

彼女の言った言葉に私はアーデン侯爵夫人のポジションが、貴族の良いとこどりと思っていたが間違いだったと気がついた。
冗談じゃない、周囲の人間から常に監視されているような恐ろしいポジションではないか。