私がレナード様に他の人と踊らないで欲しいと頼んだことにも気がついている。

「アーデン侯爵に他の人と踊らないでほしいと言ったのは事実です。お姉様の大事な時にあのようなトラブルを犯してしまったこと申し訳なく思っております」

私は椅子から立ち上がり、跪いて頭を地面に擦り付けるように謝った。
私がお姫様気分で頭が湧いていて、レナード様に無理な頼みをしてしまった。
だからあのようなお姉さまのお心を煩わせるような環境になってしまったのだ。

「顔を上げてミリア。私が怒っているのはそんなことではないの。令嬢の騒ぎなど心底どうでもいい。問題はあなたがアーデン侯爵を傷つけていること!」

聞いたことがないような優しい姉の声に私は驚いて顔をあげた。

「アーデン侯爵はお姉さまにとって、重要な人物なのですか?」

私は自分が疑問に思ったことを思わず尋ねてしまった。
怒られないだろうか、今の質問は姉の心を煩わせてしまうものではなかっただろうか。

「ミリア、しっかりと自覚して。あなたは奇跡のような男の妻になれるのよ。それは、偶然が生み出した産物によるものなの」
姉がうんざりしたように語ってくる。

「奇跡のような男とはアーデン侯爵のことですか? 偶然とは?」
姉の言った言葉がさっぱり理解できない。

「アカデミーにあなたが入学した時、あなたはスポットライトを持っていたの。女性なのに入学した首席の公女。当然、アーデン侯爵の耳にも入る。政敵の次女としてね。おそらく、彼はそれまであなたを認識もしていなかったと思う」
姉の言葉にショックを受けた。