1曲目はパートナーと踊るルールを破ってでも、我先にと彼と踊りたいということだ。
彼女たちの婚約者は自分がないがしろにされていると怒ったりしないのだろうか。
まあ、貴族の結婚や婚約など家のためにする形式的なものだから、怒るほどの感情をパートナーに持っていない人間がほとんどだ。
パートナーが浮気や不倫をしたという噂を流される恥辱を味合わされるくらいなら、レナード様で欲求を解消して来させるというのは良いアイディアかもしれない。
「私がアーデン侯爵様のお心を煩わせるようなことをしてしまったのなら謝ります」
今している自分の行動と言動がレナード様の心を煩わせているということにも気がつかない愚かな女だ。
1曲目のダンスが終わり、舞踏会会場は女達の泣き声に包まれていた。
レナード様が今日は令嬢達とは踊らないことを告げると、並んでいた令嬢の1人が泣き出し連鎖するように他の令嬢達も泣き出してしまったのだ。
「私は今日は夢の中であなた方と踊りたいのです。どうか、泣かないでください。せっかくの美しい顔が台無しですよ」
レナード様が令嬢達を慰める言葉に心底腹が立った。
彼が私を美しいと言った言葉も、前に私のおかげで幸せな夢が見られたといった言葉も一気に軽く感じてくる。
「ご令嬢方、ここは新しい皇帝と皇后の即位を祝う場です。帝国の貴族令嬢としての誇りをお忘れのあなた方が、ここにいる資格はございません。自分が何者であるか思い出せるまで、バルコニーにお出になりなさい」
私の言葉に令嬢達はレナード様の方を一斉に見た。
束縛の激しい婚約者のワガママで、彼が自分たちと踊らないとでも思っているのだ。
だから自分たちに厳しく接した私を、彼に叱責して欲しいとでも考えているのかもしれない。
「アーデン侯爵、ご自分の不手際で令嬢達を悲しませてしまったのですから、あなたもこの場にふさわしくありません。バルコニーで最後の令嬢が、会場に戻れるまでお心を慰めて差し上げたら如何ですか?」
冗談じゃない、どうしてこんな屈辱的な目に合わなければならないのか。
姉が皇后に即位する場をこれ以上汚すわけにはいかないと思い、私はこの愚かな集団を会場から追い出した。



