その事実をレナード様が知っていたとは驚きだ。
私がカルマン公爵になった時、私の夫になっていれば出兵を避けられると踏んだのだろう。

「私を利用しようとした人と、私を救ってくれた人ですよ。私にとっては、全く違います」

舞踏会で誰にも誘われない私を救ったポールと、私を利用してやろうと近づいた男を並列に語られるのは不快だった。

「そういえば、ミリアは自分を無趣味だと言っていたけれど、私はあなたは物事に没頭しやすい多趣味な人間だと思ってます。刺繍やピアノが良い例です。読書も好きですよね。お茶に関する知識にも驚かされました。今度、ミリアのいれた紅茶を飲んでみたいです」

私が彼の言動に不快感を感じたのに気がついたのか、彼が話題を変えてきた。
私が彼に対して婚約者としての仕事をしなければと考えているがバレているのか、彼は紅茶をいれて欲しいとおねだりしてきた。

「紅茶はうまくいれられるか分かりません。前に、父に紅茶を入れてあげようとしたら、紅茶が父の服にはねてしまったのです。父は怒ってポットを握り、ポットに入ってた残りの紅茶を全て私の手にかけました⋯⋯」

私は紅茶をうまくいれられるか自信がなかった。
紅茶をいれる練習をしようとすると、あの時の手に掛かった紅茶の熱さを思い出して手が震えてしまうのだ。

でも、夫となるレナード様が私のいれる紅茶が飲みたいと言うことなのだから逃げずに練習するべきだ。

「前に私が紅茶をいれるのが得意だと言ったのを覚えていますか?私は自分がミリアに紅茶をいれる方が嬉しいです。美味しいと言わせる自信がありますよ」
レナード様が明らかに私をフォローしている。

彼はいつも目の前の女性を喜ばせるような言葉を、素敵な王子ボイスで囁いてくる。
そんな彼と1ヶ月過ごしているのだから私のような人間もお姫様気分になりはじめていた。

「そうだ、ミリア。アーデン侯爵領の領地経営をしませんか?兄達は事業に集中したいと考えているので、ミリアが領地経営をしてくれれば助かると思います。私も、優秀なあなたが領地経営をしてくれれば安心です」

彼が思いついたように言ってくれた言葉が、堪らなく嬉しかった。