「お嬢様、アーデン侯爵がおみえです」
扉をノックする音とともにメイドが客人の来訪を知らせて来る。
私は慌てて自分の纏めた荷物を隠した。
メイドが私の顔を見てギョッとしている。
一晩中泣いていたので目も開かないくらい腫れている。
人に会う顔ではない。
でも、サイラスならこんな私のことも受け止めてくれる。
私たちは弱さも見せ合いながら助け合ってきたのだ。
「お約束もしていないのに、失礼でしょ。お会いできないとお伝えして」
私はメイドに指示をした。
「お約束はされています」
メイドの言葉に絶望した。
おそらく父か姉が手を回して、彼と私を今日引き合わせるのだろう。
そして、私の意思など関係なく彼と私の婚約は成立する。



