その日、翠川雅人の出版社の担当の人が来て、新刊の見本を持ってきた。
担当の人が帰った後、私は急いで橘さんの部屋の書斎に行った。
「私が最初の読者です!!」
「いや・・・まぁいいや」
私はそれを受け取って目を凝らして読んだ。
それは、会社員の男女二人のプラトニックで美しい恋愛ドラマだった。
「ああ…素敵です…私が求めていたのはこれだったんです」
翠川雅人の美しい純愛…
「やっぱりプラトニックな恋愛が好きです…」
「お前はプラトニックを捨てて俺と作ると自分で言ったんだろ…」
「でも二人でプラトニックな恋愛も書けますよ」
「それじゃ意味がない!」
橘さんはやや怒っている。
「俺は、お前が書いた、プラトニックを捨てた男と女の話が見たいんだよ。だから受けた。最後まで書け」
「うーん…」
今更引けない。
もう私はその世界を書くと決めた。
「ただ…賞を狙うなら、そういう描写はもうちょっと控えめにしたほうがいいな…」
「そうですね。色んな人に見せる前提で書いてないんで、ちょっと正直に書きすぎてますし」
「正直に書いたのと、人に見せるのと分けろ。正直に書いたのは俺に見せろ。」
「とりあえず、今書いてる途中のを最後まで書きます」
私は翠川雅人の新作を見れて満足して書斎を出ていこうとした。
「コンテスト調べてるか?自分で」
「はい」
「一番締め切りが近いやつは何?」
「えーっと、投稿サイトにあるやるですね」
「じゃあそれに応募してみろ。」
「え…あと一週間くらいで締め切られますが…」
「ダラダラ書くより、今の勢いで書ききれ」
「え!!」
「落ちるのを恐れるな。落ちても他にも応募できるし、書き直して再チャレンジもできる」
あと一週間なんて…仕事もあるのに。
──でも!
「書きます…!」
もう進むしかない。
◇ ◇ ◇
仕事の合間を縫って、やっと書き上げた、私なりの愛憎劇。
よくわからないまま、先輩の話も参考にして書いた。
恋人が既婚者だと発覚した時、主人公に静かに灯った炎が、まるですべてを焼き尽くすかのように広がり、その炎の中で、抱き合っている二人、という、自分でも複雑なストーリーだと思う。
でも、私にはこのストーリーしかなかった。
だから、どう言われても、それが今の私の実力なんだ。
完成したのは深夜だった。
私は橘さんに試しにメッセージを送った。
『完成しました』
そしたらすぐに返信が来た。
『今から来て』
まだ起きていた事への驚きと、嬉しさで、急いで橘さんの部屋に行った。
橘さんは玄関前に立っていて、私はすぐに小説を渡した。
そんなに長くはない小説。
だけど今の私のありったけを込めた。
橘さんはそれをじっくり読んでいた。
「…すごいストーリーだな。こういう展開になるとは思わなかった。」
「それは、褒めてるんですか?」
「褒めてるよ。ここまで深い、人の心の闇を描けるとは思わなかった」
「最初はわからなくて戸惑いましたが、色々な事で、感情を少し知れたんです」
「それをここまで膨らませられるんだな」
橘さんは私を褒めているんだけど、声は冷たかった。
「何か私、橘さんを不快にさせてしまいましたか…?」
「…いや、俺の嫉妬だよ」
「嫉妬?」
「俺にはここまで書けない」
「え?」
「賞がとれなくても、誰も認めなくても、俺だけは認めるよ。やっぱり美鈴は凄い。」
橘さんが真剣な瞳で私を見た。
「書き続けてくれ。お前はちゃんと書けている。それだけでもう、小説家だ」
その時、瞳から勝手に涙がこぼれた。
「そんな事言ってもらえると思わなくてびっくりしました。恐れ多いです」
「美鈴が賞をとったら、ライバルだな…」
「全くカテゴリー違うじゃないですか…」
「賞の席は少ししかないだろ」
なんとか完成させたストーリー。
応募しても何も起こらないかもしれない。
でも唯一認めてくれた。
憧れていた小説作家に。
これ以上の幸福なんてきっとない。
そう思えた夜だった。
そして、私はその作品をコンテストに応募した。
担当の人が帰った後、私は急いで橘さんの部屋の書斎に行った。
「私が最初の読者です!!」
「いや・・・まぁいいや」
私はそれを受け取って目を凝らして読んだ。
それは、会社員の男女二人のプラトニックで美しい恋愛ドラマだった。
「ああ…素敵です…私が求めていたのはこれだったんです」
翠川雅人の美しい純愛…
「やっぱりプラトニックな恋愛が好きです…」
「お前はプラトニックを捨てて俺と作ると自分で言ったんだろ…」
「でも二人でプラトニックな恋愛も書けますよ」
「それじゃ意味がない!」
橘さんはやや怒っている。
「俺は、お前が書いた、プラトニックを捨てた男と女の話が見たいんだよ。だから受けた。最後まで書け」
「うーん…」
今更引けない。
もう私はその世界を書くと決めた。
「ただ…賞を狙うなら、そういう描写はもうちょっと控えめにしたほうがいいな…」
「そうですね。色んな人に見せる前提で書いてないんで、ちょっと正直に書きすぎてますし」
「正直に書いたのと、人に見せるのと分けろ。正直に書いたのは俺に見せろ。」
「とりあえず、今書いてる途中のを最後まで書きます」
私は翠川雅人の新作を見れて満足して書斎を出ていこうとした。
「コンテスト調べてるか?自分で」
「はい」
「一番締め切りが近いやつは何?」
「えーっと、投稿サイトにあるやるですね」
「じゃあそれに応募してみろ。」
「え…あと一週間くらいで締め切られますが…」
「ダラダラ書くより、今の勢いで書ききれ」
「え!!」
「落ちるのを恐れるな。落ちても他にも応募できるし、書き直して再チャレンジもできる」
あと一週間なんて…仕事もあるのに。
──でも!
「書きます…!」
もう進むしかない。
◇ ◇ ◇
仕事の合間を縫って、やっと書き上げた、私なりの愛憎劇。
よくわからないまま、先輩の話も参考にして書いた。
恋人が既婚者だと発覚した時、主人公に静かに灯った炎が、まるですべてを焼き尽くすかのように広がり、その炎の中で、抱き合っている二人、という、自分でも複雑なストーリーだと思う。
でも、私にはこのストーリーしかなかった。
だから、どう言われても、それが今の私の実力なんだ。
完成したのは深夜だった。
私は橘さんに試しにメッセージを送った。
『完成しました』
そしたらすぐに返信が来た。
『今から来て』
まだ起きていた事への驚きと、嬉しさで、急いで橘さんの部屋に行った。
橘さんは玄関前に立っていて、私はすぐに小説を渡した。
そんなに長くはない小説。
だけど今の私のありったけを込めた。
橘さんはそれをじっくり読んでいた。
「…すごいストーリーだな。こういう展開になるとは思わなかった。」
「それは、褒めてるんですか?」
「褒めてるよ。ここまで深い、人の心の闇を描けるとは思わなかった」
「最初はわからなくて戸惑いましたが、色々な事で、感情を少し知れたんです」
「それをここまで膨らませられるんだな」
橘さんは私を褒めているんだけど、声は冷たかった。
「何か私、橘さんを不快にさせてしまいましたか…?」
「…いや、俺の嫉妬だよ」
「嫉妬?」
「俺にはここまで書けない」
「え?」
「賞がとれなくても、誰も認めなくても、俺だけは認めるよ。やっぱり美鈴は凄い。」
橘さんが真剣な瞳で私を見た。
「書き続けてくれ。お前はちゃんと書けている。それだけでもう、小説家だ」
その時、瞳から勝手に涙がこぼれた。
「そんな事言ってもらえると思わなくてびっくりしました。恐れ多いです」
「美鈴が賞をとったら、ライバルだな…」
「全くカテゴリー違うじゃないですか…」
「賞の席は少ししかないだろ」
なんとか完成させたストーリー。
応募しても何も起こらないかもしれない。
でも唯一認めてくれた。
憧れていた小説作家に。
これ以上の幸福なんてきっとない。
そう思えた夜だった。
そして、私はその作品をコンテストに応募した。



