取引先のエリート社員は憧れの小説作家だった

商談が上手くいき、仕事も忙しくなり──

今日も遅くまで残業して帰り、マンションのエントランスに着いたら、橘さんとバッタリ会った。

「橘さん、お疲れ様です!その節はご指名頂きありがとうございます!」

橘さんは…かなりお疲れな感じだった。

「ああ」

どうしたんだろう。

「じゃあ、私部屋に行きますので、失礼します」

戻ろうとしたら、腕を引っ張られた。

「どうしましたか?」

「付いてきて」

橘さんに付いて行ったら、駅前のダイニングバーに着いた。

橘さんは日本酒を頼んで飲んでいた。

「好きなの頼んで食べてていいよ」

「じゃあお言葉に甘えて…」

私は色々頼んで食べていた。

橘さんはボーッとしている。

「なんかあったんですか…?」

恐る恐る聞いた。

「何も思いつかない。」

「え?」

「ストーリーが」

ああ、小説の方か…。

私は読んでるからよくわかってなかったけど…これから自分でも書くなら、毎回何か考えないといけないんだ。

私もそんなにネタなんてない!

「なんかない?学生の時の印象深い思い出とか」

私は過去の思い出を色々漁っていた。

「えーと…あ、私、バスケ部のマネージャーやってたんです。その時に体育館裏に行ったら、練習試合の相手校のキャプテンが俯いて座り込んでたんです」

橘さんは呑みながら真剣に耳を傾けていた。

「具合が悪いのかと思って話しかけたら『もうバスケやめようと思う』とか言い出してびっくりしたんです!」

「ふーん…で?」

「理由はよくわからなかったんですけど、『あなたのプレー、私は凄いと思いました!』って言ったら、少し元気になって…その後、その人は引退試合まで続けてたみたいなんです。」

橘さんは何か考え込んでいた。

「それで終わり?」

「その後…実はその人に告白されたんです。続けられたのは私のおかげだって。でもただ気持ちだけ言って、彼は行ってしまいました」

「そうか…」

橘さんは、そっぽを向いた。

「え、どうしたんですか?」

「なんでもない」

その後、二人でマンションに向かって歩いていた。

「美鈴は俺だけの特別だけじゃなくて、そいつの特別でもあるんだな」

橘さんは少し寂しそうに言った。

「よくわからないんですけど、私の言葉で誰かが救われたなら嬉しいです」

マンションの前に着いたら、誰か立っていた。

前橘さんと一緒にいた女の人だった。

「あ、先生!原稿まだですか?」

「今仕事忙しいから、まだかかりそう」

その後橘さんとその女の人は色々話して、その女の人は去って行った。

「あの人、出版社の人ですか?凄い仕事できそうな人ですね」

「うん。しっかりしてるんだけど、キツイんだよね」

その後、エレベーターに乗った時、橘さんにキスをされた。

「俺だけの特別。誰にも渡さない」

「…もしかして、あの話を聞いて嫉妬してたりします?」

「別に」

その後、橘さんの部屋に連れて行かれてしまった。

橘さんは書斎に向かってパソコンで文字を打ち始めた。

翠川雅人が原稿を作っている!!

私はその場にいれた事が嬉しくて、パソコンを覗こうとしたら「見るな」と言われた。

「やっと書く気が湧いた」

橘さんの力になれた事が嬉しかった。

「あ、言っとくけど、出張で指名したのは私情とか関係ないから。資料見たりして、美鈴が適任だと思ったからだ」

「はい!嬉しいです!これからも頑張ります!」

橘さんは少し微笑んで、その後暫くパソコンに向かっていた。

私はレビューを書く時のために、本棚の本から一冊選んで読んでいた。