そう、事件は放課後に起きた。


「沙羅ちゃんは今日も彼氏さんと帰るの?」


「もちろん。バレンタインは危険度120パーよ」


???バレンタインってもっと楽しい行事じゃなかったけ…?


唯も気をつけてね、とそれだけ言うと忙しそうに三年生の階に走っていった沙羅ちゃん。


そ、そうだった……放課後…天馬くん…怒ってる……。


早くチョコ渡しに行かないと怒りが2倍……いや、10倍に達してしまう…!


スクバに急いで教科書を詰める。


………(固まる)。


嘘……水筒の水溢れてる…ぅ…。


そういえば朝急ぎすぎて水筒のパッキンするの忘れたような…そしてママに引き止められたんだけど急ぎすぎてそのまま家飛び出してきちゃった…。


もう…今日ツイてない……。


教科書はおかげでびしょびしょになり後処理をしていたら軽く30分過ぎてしまった。


あー……絶対天馬くん怒ってるよ…。


――ドンッ


その勢いで教室を飛び出すと思いの外誰かにぶつかってしまった。


「ごめんなさい…!!」


申し訳ないと思いつつそれだけ言って行こうとすると手首を掴まれた。


「唯ちゃん、だよね?」


ゆっくり振り返ると同じクラスの武田くんがいた。


「……?うん…」


「このチョコほしーな〜」


チョコ……?そう思うと武田くんの手に握られていたのは天馬くんへのチョコ。


「……あ、それ…!」


チョコに手を伸ばすと高くあげられてしまった。


「…っ、天馬くんのチョコなの…!」


「へぇ、天馬くん……ちょうどいい。これ、くれない?」


武田くんに……?それは絶対だめ…!ただでさえ天馬くん怒ってるのにチョコもなかったらどうなることか…!私の命にも関わる話だし…!


「…っ、でもそれは天馬くんのでね…!」


「いいじゃん、ほしいんだから。ついでに俺と良いことしない?」


いいこと……?


そんな…まずチョコ返してもらわなきゃなのに…!


下校時刻はもうとっくに過ぎていて助けを求められる人もいない。


天馬くん…っ。


「……いい度胸だね、武田クン。俺の女に手出すとか」


後ろから聞こえた大好きな人の声。


天馬くん……。


引き寄せるように首元に手が回った。


「何、相手でもしてほしいの?なら、してやってもいいけど」


相手……?なにそれ…。


「……ごめん、って…」


さっきの勢いは何だったのかと思うほど弱々しい声でそう呟いた。


「こんなとこで道草食ってるほど暇だったんだ?」


…っ道草なんかじゃなーいっ!!


ふるふると首を振るとぐいっと顔を近づけた。


「なら、分かってるんだ?」


何を……?


今、私は猛烈にエスパーになりたいです…!