琴音と一緒に帰ったあの日から、
5日が過ぎた週末の土曜日。
今日は夕方になっても空気が
どこか柔らかかった。
夏の終わりに近づいた風が、
昼間の熱を少しだけ連れ去っていく感じ。
琴音のマンションの前で、
俺は立ち止まった。
何度も来た場所。
何度も、ここから一緒に歩いた道。
けれど今日は……
胸の奥にある緊張が、
今までとはまるで違った。
インターホンを押すと、
ほどなくして琴音が出てくる。
「理央君!」
その呼び方は、もう慣れたはずなのに、
今日だけは胸に強く響いた。
「迎えに来た。」
俺は、今日琴音と思い出の
場所に行って気持ちを伝えようと誘った。
それで、思い出してくれたら嬉しい。
琴音は顔を赤く染めながら、
ゆっくりと頷いてくれた。
「うん///。」
俺らは並んで歩き出す。
手は、まだ繋がない。
東中園。
琴音が住んでる町。
俺がことねと恋人になって、
何度も足を運ぶようになった町。
東中園駅を過ぎ、商店街を抜け、
住宅街の中の緩やかな坂を上る。
懐かしい匂い。
夕飯の支度を始めた家々から漂う、
生活の匂い。
琴音はというと……
歩きながら何度も
周囲を見回していた。
そんな仕草もやはり可愛くて
愛おしいくてたまらなくなる。
琴音
「……ここ、」
「なんだか落ち着くね。」
理央
「琴音の地元だからな。」
琴音
「そっ……そうだよね!」
その言葉に、琴音は小さく笑った。
やがて、視界が開けるとそこには
小さな公園。
その奥にある、なだらかな丘。
——あの日と同じ場所。
俺は、
丘の上の青いペンキで塗装
されている木製のベンチに腰を下ろした。
琴音は俺と少しだけ距離を取って、
立ったままになった。
沈黙が落ちる。
この沈黙が余計に胸の鼓動を早く
するのが明白にわかる。
遠くで、子どもの笑い声がする。
風が、草を揺らす音。
夏の夕暮れがどこか刹那を表して
いるようだ……。
俺は、深く息を吸った。



