だから……ちゃんと
説明をしなきゃ……。
今日の昼休み、教室を出た時の事を。
琴音
「昼休み、トイレ行く時に」
「矢口君から聞いたの……。」
「私、理央君と付き合ってるって。」
「恋人同士なんだって……。」
私がそう説明すると、
千歌ちゃんも晃も、
はっと息を飲んだのがわかった。
私は、少し戸惑いながらも続けた。
琴音
「記憶は……まだ戻ってない。」
「でも、みんなの話を聞いて、」
「スマホのフォルダーに入ってる」
「写真には理央君と私が写ってる」
「写真も多くて……。」見て、
「この指輪を見て……」
私は左手の薬指にはめてる
指輪を見つめる。
琴音
「“大切な人だった”ってことだけは、
「ちゃんと伝わってきて……」
視線を上げ、2人をまっすぐ見る。
琴音
「だから……」
「今の私の気持ちのままでもいいから、」
「一度、ちゃんと会って話したいの。」
私の声は少しだけ震えた。
琴音
「私……」
「このまま思い出せないのは」
「やだなぁ……って。」
千歌ちゃんは、
私の表情をじっと見つめた後、
言葉を話した。
千歌
「琴音ちゃん……1人で」
「会いに行くつもり?」
琴音
「うん、そのつもりだけど。」
そう答えた瞬間、晃が口を開いた。
晃
「……それは、ダメだ。」
私は、少し驚いて晃を見る。
晃は、低くでもはっきりした声で続けた。
晃
「今、まだ本調子じゃないのに」
「電車を1人で乗って行って」
「て言うのはちょっと危険だと思う。」
「まだ、感情が不安定なの分かってるだろ?」
晃の言葉に対して、
千歌ちゃんは大きく頷く。
千歌
「そうだよ……琴音ちゃん。」
「アキ君の言う通りで」
「もし途中でしんどくなったらどうするの?」
私は、言い返そうとしたけれど
何も言えなくなった。
心配されているのが、
はっきり分かるから。
これ以上、心配かけさせたくない。
私が、
どうしたら良いか困っていると……
千歌
「……じゃあ」
千歌が、少しだけ柔らかく笑う。
千歌
「神谷崎高校の最寄り駅の」
「大和駅までなら、」
「私たちも一緒に行く。」
「心配だから……。」
晃も、千歌ちゃんの提案に
短く頷いた。
晃
「俺もそこまで送る。」
琴音
「2人共本当に、」
「……ありがとう。」
そう言うと、
二人は頷き何も言わずに準備を始めた。
夕方の電車は、
思ったより混んでいた。
窓の外に流れる景色を見ながら、
琴音は無意識に指輪を触っていた。
千歌
「……緊張してる?」
千歌ちゃが、小声で聞く。
私は、正直に頷く。
正直、凄く緊張で心臓がバクバク。
友達と思ってた理央君がまさかの
彼氏だった事に驚いてるんだ……
私……。
どうしよう……何を話せば良いのだろ……。
だけど会いたい気持ちが抑えられない。
前の私もこうだったのかな……。
早く記憶を取り戻したい。
琴音
「うん。」
「何を話せばいいのかも、」
「分からなくて……。」
「早く、思い出したいのに……」
「思い出せなくて緊張する。」
晃は、私の話しを聞くと
前を向いたまま言った。
晃
「無理に思い出そうとしなくていい。」
琴音
「えっ……?」
晃
「今の琴音が感じたことを」
「理央に話せれば十分じゃねぇの?」
「理央もその方が喜ぶぞ。」
その言葉に、
私は静かに息を吸った。
大和駅に着くと、
ホームの空気が変わった。
ここから先は、
神谷崎高校に行くルート。
千歌ちゃんは、
改札の前で足を止める。
千歌
「ここまでだね。」
晃も、一歩後ろで立ち止まる。
私は、2人の顔を順番に見た。
琴音
「……行ってくる。」
そんな私を見て千歌ちゃんは、
少し不安そうに笑う。
晃
「うん、行って来い。」
「でも、何かあったら」
「すぐ連絡しろよ。」
晃は、短く言った。
琴音
「うん、分かった。」
晃
「無理はするな。」
私は、力強く頷いた。
琴音
「大丈夫だよ!」
そう言って、改札を抜ける。
改札を抜けて振り返ると、
2人はまだ、そこに立っていた。
私の見送られている背中が、
少しだけ心強かった。



