君の事好きになっても良いですか?


*理央*

理央は、病院の白い天井を見上げたまま、
ただ、息をしていた。

助かった。
命に別状はない。
それなのに、胸の奥に溜まった重さは、
少しも軽くならなかった。

——今日の朝。

”迎えに行くから、”
”ロビーで待ってて。”

何気なく電話で言ったその言葉が、
今は刃物みたいに突き刺さってくる。

本当は、
自分がすぐに会いたかっただけだった。
浴衣姿を一番に見たかった。
花火の前に、二人きりの時間が欲しかった。

その全部が、
自分の“欲”だったことに、
今さら気づく。

もし、
迎えに行くなんて言わなければ。
もし、家にいさせていれば。

——そしたら、
——琴音は階段を降りなかった。

理央の頭の中では、
何度も何度も、同じ場面が再生される。

琴音が笑って、
”理央”って言いながら
俺に向かって走ってくる姿。

その先に、
あの階段があったことを、
理央は知らなかった。

知らなかったから、
守れなかった。

恋人なのに。
一番近くにいるはずの存在なのに。

「俺が、一緒に連れて行くべきだった……」

声に出すと、
喉が震えて、言葉が途切れる。

自分が迎えに行くと言ったせいで、
琴音は一人で外に出た。
自分のために、
無理をした。

その優しさが、
結果的に彼女を傷つけたかもしれないと思うと、
息が詰まりそうになる。

——守るって、何だ。

一緒に笑うことか。
隣を歩くことか。
それとも、
危険から遠ざけることなのか。

俺は、
その答えを持たないまま、
恋人になったのか?

そして今、
答えを知らなかった代償を、
突きつけられている。

「ごめん……」

眠ったままの琴音に、
届くはずのない言葉を、
心の中で何度も繰り返す。

謝っても、
時間は戻らない。

だからこそ、
理央は強く思った。

もし、
もう一度目を覚ましてくれたなら。

次は、絶対に離さない。
自分の都合じゃなく、
彼女の安全を、
一番に考える。

それが、
今の理央にできる、
唯一の誓いだった。


理央 side 終わり