君の事好きになっても良いですか?


*琴音*

——花火大会が始まる、その日の夕方

夕方の部屋は、
昼間に溜め込んだ熱を
まだ少し抱えたままで、
窓から入る風が、
カーテンをゆっくりと揺らしていた。

その風が、
私の浴衣の袖をかすめるたび、
布の音が小さく鳴る。

「はい、じっとしててね。」

背中越しに聞こえるお母さんの声は、
いつもと同じなのに、
なぜか今日は、少しだけ優しく響いた。

帯を締める手が、
きゅっと力を込めて、
それから微調整するように緩む。

「苦しくない?」

「うん、大丈夫。」
「お母さん、ありがとう。」

鏡に映る私は、
少しだけ背筋が伸びて、
いつもより大人びて見えた。

……1年前とは……違う。

東中園の花火大会。
あの夜、
理央が真剣な顔で私を見つめて、
震える声で気持ちを伝えてくれた。

その時の空気も、
胸の奥が熱くなった感覚も、
今でもはっきり覚えている。

懐かしいなぁ。
あの時の理央……
凄くかっこよかったなぁ。


「楽しみ?」

お母さんが、
鏡越しに私の顔を見て、
そう聞いた。

「……うん///」

短く答えたけれど、
本当は……
言葉にできないくらい、楽しみだった。


お母さんは、
私の表情を見て、ふっと笑う。

「いい顔してる。」

その一言が、
少し照れくさくて、
私は視線を逸らした。

帯が結ばれ、
最後に、
お母さんの手が私の肩にそっと置かれる。

「理央君がいるから安心だけど、」
「夜は人も多いから、」
「気をつけてね。」
「ロビーで待つように言われてるんでしょ?」

「うん!」
「行ってきます!」

玄関を出ると、空はまだ明るく、
でも確かに、昼とは違う色を帯びていた。

湿った空気。
アスファルトの匂い。
遠くから聞こえる、
どこかの家のテレビの音。

――夏が、始まった。

スマホを確認すると、
理央が迎えに来てくれる時間まで、
まだ少し余裕があった。

……そうだ!!

ふと、
小さな思いつきが胸に浮かぶ。

東中園駅まで、
理央を迎えに行こう。

少し驚かせて、
それから一緒に花火大会へ行く。
そして、
出店でりんご飴や、
焼きそばを食べて、
金魚すくいもしたいなぁ。

そんな光景を想像しただけで、
胸が、きゅっと軽くなる。

草履の音を響かせながら、
私は階段へ向かった。

コンクリートの階段は、
昼の熱をまだ残していて、
足の裏にじんわりと伝わってくる。