「はぁ……」
私はため息をつく。
私の名前は福原 望美(ふくはら のぞみ)
え? ため息をつく理由?
それは……
私は顔を上げる
目に映ったのはドンとそびえ立つ校舎
そして人の気配がない校門
さらに午前9:30を過ぎた時計
そう、つまり……
遅刻
ではなく…
不登校です。
昔から人に馴染む事が苦手だった私
そして中1のときの1件があってから学校に行かなくなった
親が心配するからたまには学校に行こうと思ったけど…
たぶん無理だな…
立ちつくした末そう思って校門を背に歩き出した
歩道を歩きながらこれまでのことを
思い出してみる
中1の入学したてのころ
私には友達がいなかった
小学生からの友達が中学にいなかったってのもあるし、友達との関わりかたが学年があがるにつれてどんどん複雑になっていって、馴染めなかったから
そうしたらクラスで1番可愛いという女子に目をつけられた
あと少しで友達になりそうだった子も、離れていった
そう、つまりいじめられているという感じ
私はいじめにあってたとき、強がってた
物を盗んだと濡れ衣を着せらせても
わざと私にだけ聞こえるように悪口を言われても
平然としている“フリ”をしている
でも家では無理
怖い、憎い、つらい、
こらえきれなくなった感情が爆発する
自室にこもって泣いて、一人で苦しんで…ボロボロになる
学校で強がっているのは“馬鹿にされる”のが嫌だからかもしれない
弱みを見せたら自分が惨めだって認める感じがして…
ずっと我慢してた
そして
いつしか中学生くらいの人が怖くなった
女子でも男子でも同い年くらいの人を見ると
恐怖で押し潰されるような感じになった
もうあの子たちとは関われないと思った
―いつしか学校に行かなくなった
…身体が拒絶するようになった
―――――――――――――――――――
「ふっ…」
私は自分をあざ笑うように声を出した
心なしか表情が暗くなった気がする
普通はそんなことで不登校になったりしない
自分は恵まれている
世の中にはもっと苦しんでいる人がいる
そんなこと分かっている
自分は弱いから、強くなっていかなきゃ
そうとは思ってるんだけどね……
―――――――――――――――――――
前を見ると私の家が見えるくらいのところまで歩いていたらしい
家の前の交差点にさしかかった
交差点は赤信号だったから一回止まる
早く家に帰ろ
そう思っていたときだった
「…あのー…」
後ろから、柔らかい女性のような人のの声が聞こえた
「ちょっと、いいですか?」
振り返ると20代前半くらいの綺麗で優しそうなお姉さんがいる
「…はい」
「少しついてきてもらえる?」
なんで?
……?
なぜ私を?
「私、不登校の子の居場所をつくる仕事をやってるの。あなたも学校に行きづらい?」
急に心の中を呼んだようなことを言われてびっくりした
けれど…
「はい…」
そう答えた
なぜ答えたのか、自分でも分からない
けれど他の人とまとっている空気が違うような…
なんだか…身を預けられるような…
私が戸惑っていると彼女がまた微笑んだ
「私の名前は小波 真里(こなみ まり)って言うの
今からついてきてくれない?居場所に案内するよ」
一見すると怪しいが、彼女…小波さんの包囲力でそんなことは思わないな…
「そこまで…遠くないなら」
私はうつむき加減にボソッとつぶやく
その一言で小波さんはますます表情を明るくさせる
「ありがとう!場所はね…そこよ」
小波さんは隣を指をさした
その指がさしている先には…
“樹の戸 集いの場所”
と書かれた看板と
白い壁の真新しい二階建てくらいの一軒家があった
「…こんな場所、あったんだ」
「この建物の窓からこの交差点が見えて、たぶんあなたも学校に行きづらいんだろうなって思って」
…なるほど?
小波さんが歩き出したので私もついて行く
「そういえば名前は?」
「福原望美です」
彼女の問いかけにそう答えた
「…良い名前ね」
小波さんが目を細めて言う
そんなたわいない話をしていると建物の入り口まできていて、小波さんは扉を開けた
「ここがみんなの居場所、樹の戸よ」
小波さんが私を先導するように歩く
そこに、私もついていった
シンプルなデザインに白い大理石調の床、広い廊下。それがお洒落な雰囲気をも出していた
まず最初に見えたのは玄関
そこから進んで右手にはfreeroomというプレートがかけられている部屋
そして廊下をはさむようにしてそびえたつ部屋は同じようなプレートにbookroomと書かれている
この廊下の先はリビングだそうだ
その他にもたくさんの部屋があった
小波さん…どんだけお金持ちなの?
私はそう心で呟きながら、廊下を歩いていく小波さんを見つめる
「ここが~~部屋で、こっちが○○部屋で~」
当の本人は私がそんなことを思っていることに気づいていない様子
部屋の説明をしながら、どんどん廊下を進んで行った
「おかえり~!小波さん。例の子連れてきた?」
なんて思っているとリビングの方から男子の声がした
人の気配なんか感じなかったから突然の人の気配にビクッと肩をゆらしてしまった
――この人は私を悪く思っているかもしれない
もしかしたらいじめられるかもしれない
―怖い
「大丈夫よ。悪い人じゃないから」
そんなこと言われても怖いものは怖い
いつの間にか玄関の方へ走ってしまった
「「まって!」」
そんな声が聞こえた気がしたけれど、走って、走って、走った
樹の戸を抜けて、家まで走った
信号なんて見られなかった
運動不足のせいか、すぐに息が切れる
それでも、走って家までついた
家の中に入りバタン、と音を立てて戸が閉まる
私はその場でへにゃりと座り込んだ
【?side】
「望美ちゃん、帰っちゃったか~」
小波さんが呟く
「あのところで君が出てくるからじゃん。しかも君が望美ちゃんを連れて来てって言ったんだよ?」
その通り、福原さんを連れてくるよう言ったのは俺だ
何回か窓から見たことがあって、すごく…なんか、抱え込んでいる感じがしたから
―あと、俺の大切な人と同じ気がしたから
そして…居場所をつくってあげたい
そんな風に思った
誰かを真剣に思うのは久しぶりな気がする
福原さんの家に、尋ねてみようか?
「望美ちゃんの家に尋ねてみたら?君が興味を持った人のこともっと知りたいし。家の場所はさっき聞いたし」
小波さんが言う
「……はい、行きます!」
俺は返事をした
彼女が会ってくれるのか分からないけど、絶対に諦めない!
「住所は今送るから、
がんばってね。柳くん」
そんな小波さんの声を聞きつつ樹の戸を飛び出した
俺の名前は、白川 柳(しらかわやなぎ)
俺は…
福原さんに会いにいく!
【望美side】
「これからどうしよう」
私は誰もいない家の中で呟いた
いつもは勉強をしたり、テレビを見たりしている
でも、今はなんか身体がだるい感じで、なにもする気になれない
それに頭も痛いし、気持ち悪い
…樹の戸に行ったとき、あの男子に会ったからかな?
なんて考えてたらもっと頭が痛くなってきた
自室に行きベッドに横たわる
だけど頭がガンガンする
意識が遠のいてきた
助けて、誰か
心の中でそう叫ぶが親は夜遅くまで帰ってこない
このまま死んじゃうのかな
今までこの世にいなければいいって思った事もあったけど、いざ死ぬとなったら怖い
「うぅ。はぁはぁ」
ぴんぽーんぴんぽーん
インターホン?
もしかしたら…!お母さんが帰ってきてくれたのかも
「ふぅ、ふぅ」
私はなんとか身体を動かし、玄関まで行き、ドアを開けた
「こんにちはーって、え?え?どしたの?」
―あの男子だ
早くドアを、閉めよう
そう思ったところで私の意識はプツッときれた
【柳side】
「ここか…」
俺は視線を上に向ける
視線の先にはごくフツーの家が建っていた
電気は一カ所しか付いていないから一人かな?
そんなことを思いながらインターホンを鳴らす
ぴんぽーんぴんぽーん
それから少しの間をあけてドアが開いた
「こんにちはーって、え?え?どしたの」
どういうことだ?
彼女は真っ赤な顔をしていて、今にも倒れそうな感じ
福原さんの方も焦った顔をしていた
「あ…あの」
俺が声をかけようとしたけど、彼女は突然倒れてしまった
ぐらりと傾く身体
慌てて支えた福原さんの身体が熱い
救急車、呼んだ方がいいのか?
震える手でスマホをポケットから取り出し、119に電話をかけた
何分かたった後、救急車が来た
俺は出直そうと思ったけど付き添いが必要らしい
彼女の容態も気になったし、同行することにした
俺たちは救急車に乗り、救急隊員に知っている彼女の情報を伝えながら、小波さんに連絡をした
一通りOKかな?
俺は暇になって福原さんの顔を見つめた
苦しそうに目をつむっている
これは俺のせいか?
俺が木の戸に連れてくるよう小波さんに言ったからか?俺に会ってしまったからか?
自分に対する感情が溢れ出てくる
俺にできることは…
無事を祈ることだけ…
【真里side】
「大丈夫かな?」
私、小波真里は柳くんがいなくなって一人静かになった部屋を見て呟く
あの子ときどき本気になりすぎてカラぶるのよね~
彼は白川柳くん
今は中2で、家がここの隣にあるから小6くらいのころからほぼ毎日木の戸に通ってる。とある理由から学校には行ってないからね
彼の他にもいつも不登校などの子がいるんだけど、近くの海に遊びに行ったみたい
まあ、それにしても柳くんに気になる子ができて良かったな
これで過去を引きずらないで生きることができるかも知れない
…なんかお母さんみたいな思考に陥ってない?
私はいちおう柳くんの先生的な存在なんですが
ま、いっか
――ピコン
ん?この音はスマホのメッセージの通知音
なんかあったのかな?
『福原さんが倒れた。○○総合病院に来てほしい』
柳くんからの連絡
どういうこと?嫌な予感がする
私は慌てて病院へと車を走らせた
【望美side】
「…ぞみ………!望美………。望美ちゃん!」
……声が聞こえる
…おかあさんの声かな?
呼ばれている気がする
声の方に走った
なんか今、私がいる世界は真っ白
色がない殺風景な雰囲気は孤独感を思わせる
誰か…助けて…
「望美!」
そんな声で現実に戻された感じがした
重たい瞼を開けると…まだピントが合わないけど…誰かの顔?が写っていた
よーく見てみるとここは病院?
なんで…?
「あなたは、誰ですか?」
私は掠れた声で質問する
「え…?望美ちゃん?私だよ、小波真里だよ」
こなみ…まり?
「誰…ですか?」
記憶をたどるけどそんな人、知らないんだけど…。
「え……?忘れた?樹の戸は覚えてる?」
「キノトって?」
誰かの名前?
「望美…ちゃん?」
真理さんは目を見開いて固まっている
――ガラガラガラッ
戸を開く音が聞こえてそちらに目を向ける
そこにいたのは同い年くらいの見知らぬ男子だった

