照れ屋な大崎くんは私のことが好きすぎる。

 首を横に振ると、巡査部長は「なんで?」と不思議そうな顔をする。

 俺はイスに座りデスクに両肘をついた。そして組んだ指に額を押しつけながら「なんでもないです」と短く言う。

「え、めずらしい。大崎さんがへこんでるんですけど」
「おい大崎、なにがあった。悩んでるなら話を聞くぞ?」

 俺の様子を見た同僚たちに心配されたけれど、初恋の人の前で失態を犯し、動揺しすぎて食事が喉を通る気がしないんです――なんて、言えるわけがなかった。



 


 市民からの相談を聞く受付とその奥にある事務スペース、狭い仮眠室とトイレという必要最小限の設備しかない交番に対し、その地域を統括する警察署にはさまざまな施設がある。

 交通課や生活安全課などそれぞれの課のフロアや、被疑者を留置する留置施設。そして日々の業務に必要な、体力、技術、精神力を養うための武道場。

 その日、非番だった俺は、警察署内にある武道場にこもっていた。

 数日前の真帆ちゃんとのやりとりが頭から離れず、心が乱れたままだったからだ。