性別や国籍、障害の有無など、さまざまな違いを受け入れ尊重しあい、誰もが働きやすい組織を目指すための社内サポートチーム…という部長の説明は耳に心地良く響き、心が弾んだ。
ダイバーシティ、なんて最近よく聞くようになった言葉を冠して、いかにも “意識高い系” だ。

下話がされていたのか、隣の沖口課長は終始眠たげな様子だった。

「D &Iが発足した、って社内インフォメーションで見たきりだったけど。橘さん、残業してるってことは忙しいんですか? 具体的にはどんなことをしてるんですか」

「…それ聞いてくれたの、二階堂さんが初めてです」
期待させないでほしいと思う。さんざん裏切られてきたのだから。

具体的な活動内容はというと「当面は」と前置きして部長は、人事部所属の障害者雇用の社員二名のサポートをお願いしたい、と告げた。
視覚障害がある片山(かたやま)陽太(ようた)さんと、聴覚障害がある北岸(きたぎし)(こずえ)さんのメンター的存在になってほしい、とのことだった。
「まあよろしく頼むよ」と打ち合わせは締めくられた。