対して自分は———いや、考えるのはよそう。
「橘さん、残業してたんですか?」
水面に小石を投げこむように、彼が問うてくる。
「あ、いえ、残業ってほどのもんじゃ…」
つい卑屈な口調になってしまう、いけない、いけない。
だからつい口が滑った。
「D &I推進の仕事にかまけて、通常業務が後回しになってしまって」
それで…とつぶやきを飲みこむように、抹茶ラテを口に含む。
「D&Iでしたっけ」
はい、と頷く。社内活動に関心を持ってくれているのか、それとも単純に横文字に強いのだろうか。
D &I、直訳すると「多様化」と「受容」だ。
人事部の部長主導で、[D &I推進チーム]なるものが発足し、明日美がそのメンバーに選出されたのは、三ヶ月ほど前のことだ。
チームといっても、メンバーは定年間近の庶務部の沖口課長と明日美の二人だけというのは引っかかったけれど。
それでも、入社五年目にして初めて、業務の枠を超えてプロジェクトのメンバーに選ばれたのだと、明日美は単純に嬉しかった。
「橘さん、残業してたんですか?」
水面に小石を投げこむように、彼が問うてくる。
「あ、いえ、残業ってほどのもんじゃ…」
つい卑屈な口調になってしまう、いけない、いけない。
だからつい口が滑った。
「D &I推進の仕事にかまけて、通常業務が後回しになってしまって」
それで…とつぶやきを飲みこむように、抹茶ラテを口に含む。
「D&Iでしたっけ」
はい、と頷く。社内活動に関心を持ってくれているのか、それとも単純に横文字に強いのだろうか。
D &I、直訳すると「多様化」と「受容」だ。
人事部の部長主導で、[D &I推進チーム]なるものが発足し、明日美がそのメンバーに選出されたのは、三ヶ月ほど前のことだ。
チームといっても、メンバーは定年間近の庶務部の沖口課長と明日美の二人だけというのは引っかかったけれど。
それでも、入社五年目にして初めて、業務の枠を超えてプロジェクトのメンバーに選ばれたのだと、明日美は単純に嬉しかった。


![he said , she said[完結編]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1737557-thumb.jpg?t=20250401005900)
![he said , she said[1話のみ]](https://www.no-ichigo.jp/img/book-cover/1740766-thumb.jpg?t=20250404023546)