聞かれてもいないのに補足してしまった。
「子どもの頃は毎年、初詣で真剣にお願いしてたんですけど。好きなアイドルと偶然会えますようにとか、受験に合格しますようにとか。でも願いごとって毎年変わっちゃうんですよね。だから全部まとめてお願いすることにしたんです」

なるほどねぇ、という相槌(あいづち)に揶揄する響きはなかった。

意地の悪い人ではなさそうだ。

流れのままに「二階堂さんは、なにをお願いしたんですか」と聞いてみた。

今取り組んでいるプロジェクトがうまくいきますように、と淡々と返ってくる。
「現実的すぎて夢がないな」

わたしにとっては夢だ、と明日美は内心つぶやく。取り組んでいるプロジェクトなんて、なにもない身としては。

橘さん。
また名を呼ばれて、隣を歩く聡を見上げる。

彼はつと手を上げて、車道をはさんだ斜め向かいを示した。
「あそこにカフェがあるから、お茶でも飲みませんか?」

またも唐突な誘いだ。

「俺、自販機でコーヒーを買い損ねたもので。お釣りを見つけちゃったから」

そういえばそうだった。
彼に流されている気もするが、結局承諾してしまった。