社内のなんでも屋な部署なので、どこかで接点があったのだろう。

(たちばな)さん、ですよね」

名前を呼ばれて、はい、と思わず目をぱちくりさせてしまう。
名もなき存在、と自認しているのに、二階堂聡が自分の名前を知っているとは。

「これ、お賽銭(さいせん)にしませんか?」

「お、お賽銭ですか?」
時代の最先端というべきITエンジニアの口から出た「お賽銭」の言葉に、思わずまじまじと彼を見返してしまう。

「そんなにまん丸な目で見つめないでほしいな。近くに神社があるじゃないですか」

二階堂聡はふと首を回して、窓の向こうに視線を巡らせる。

そんな突拍子もない誘いに乗ってしまったのは、疲れていてなるようになれと思ったのと、それにそう相手が二階堂聡だったからだ。
いかにも今どきの容姿をして、さぞかしモテることだろう。自分なんかを相手にするはずがないから、警戒するまでもない。

ハイスペックなイケメンとの夜の散歩だと思おう。

買ったばかりのペットボトルをひとまず社員用の冷蔵庫に放り込んで、二階堂聡とビルの外に出た。