キッチンへ返すマダムを、隣のテーブルの客が呼び止めた。
こちらと同じく会社の同僚とおぼしき男女の三人連れだ。

「すみません、ナンはないんですか?」

「うちはナンはやってないんです」
朗らかながらきっぱりした口調だった。何度となく問われて、そのたび同じ答えを返してきたのだろう。

ほどなくして出てきたラッシーを一口。自家製というだけあって実に美味しかった。
コクがあるのに爽やかだ。
「美味しいですね、これ。飲みすぎないようにしないと。食べる前にお腹がふくれちゃう」

「俺もふだんあんまり甘いもの飲まないんですけど、これは好きで。やっぱりカレーにはラッシーが合うんですよね」

壁を背に座っているので、キッチンの様子が目に入った。
肌の色が濃くエキゾチックな容姿をした男性が二人。本場のシェフというやつか。
そしてマダムと同じ年頃と見える、おそらくは日本人の女性が一人。三人でキッチンを切り盛りしているようだ。
ホールはマダム一人で回している。

最初に運ばれてきたのはココナッツライスだった。
長粒米に数種類のナッツが混ぜられ、細かく刻んだ白いココナッツが散らされている。