「だとしたら、これどうしましょうか?」
彼は小首を傾げてみせる。

あ、金融事業部の二階堂(にかいどう) (さとし)さんだな。
頭の中の社員名簿をすばやくめくる。庶務部の業務柄、社員の顔と名前はほぼ頭に入っている。

「えっと…」
明日美は言葉に詰まる。社内の落とし物は、最終的に庶務部に行き着く。
それはそれでまた———

「でも仕事増やしちゃいますよね」
こちらの頭の中を読んだように、彼が言葉を引き取る。

「そうなんです」
と明日美も困り顔で返すことができた。

たまに社内で小銭を拾ったと届けてくれる人がいる。社内に回覧して、一定期間庶務部で保管し、落とし主が現れなければ寄付に回すところまでやらなけらばならない。正直、たかが小銭のためにである。
だからといって立場上「ネコババしちゃってください」と言うわけにもいかない。

逡巡する一方で、彼が自分を庶務部の社員だと認識していることに気づく。