橘さん、彼は明日美のデスクの角で足を止めて声をかけてくる。
「このあいだはどうも」

「あ、はい」と間の抜けた返事をする。

「よかったらもう少し話を聞かせてほしくて」
彼は続ける。

なんの話をするのだ。昭和と令和が。
それはかまいませんが、と口は勝手にあたりさわりのない言葉を返している。

「よかった」
と白い歯をのぞかせる。
そんな爽やかな笑顔を向けられると、勘違いしそうになるからやめてほしい。

「どこか場所取りましょうか?」
聡を見上げたまま、片方の手でマウスをさぐる。

「橘さん、カレー好きですか?」

「カレー?」
なんだろう、藪から棒に。

「ちょっと歩くんですけど、俺が好きなカレー屋があるんです。よかったら食事しながら話しませんか」

今夜の予定を聞かれて、正直に特にないと答えてしまう。
さくさくと仕事上がりに食事の予定が組み込まれた。